特別研究室

オランダ・アムステルダム地下鉄の紹介

地下区間はごくわずかです。



地下鉄車両と踏切。


・路線
 オランダ・アムステルダムのメトロは全部で4路線。それぞれ50,51,53,54の番号が付いて おり,52番は欠番になっています。(この番号はパリメトロのような路線番号というよりも, トラムやバスのような系統番号といった雰囲気が強いので,以後「○号線」ではなく「○系統」 と呼びます。)ラインカラーも設定され,50系統は緑,51系統はオレンジ,53系統は赤,54系統 は黄色です。ラインカラーは路線案内のほか,旧型の車両では行き先方向幕の下地の色に使われて いますが,車両は路線ごとに分離運用されていないようですので,車体には路線を区別するライ ンカラーは使われていません。

 4路線のうち50系統以外の51,53,54の3系統が市内中心部のアムステルダム中央駅と 郊外の住宅地を結ぶ路線で,50系統は中心部には乗り入れない郊外のみの路線です。市内の 移動手段というよりは郊外と都心を結ぶ路線という性格が強く,観光名所とは離れたところを 通りますから,観光にはあまり利用できないかもしれません。各路線が重複する部分は線路を 共有して運行され,日本のように路線ごとに専用の軌道を持つものではありません。路線の うち,地下区間はCentraal station駅からAmstel駅手前までの区間で,地下区間の設置駅は 5駅のみ,それ以外は全て地上または高架駅となります。したがって,Centraal station駅に 乗り入れない50系統は全区間地上走行となります。


正面左の系統番号の色がラインカラー。左:53系統(赤),右:50系統(緑)

・車両
 私が確認しただけで3種類の車両がありました。まず,51号線以外に使われていた少し古めの 車両はいわゆる普通の地下鉄車両で,ローマやブリュッセルで見かけるような外づりドアの車両 です。2両1ユニットで私が乗ったのは全て3ユニット連結の6両編成でした。非貫通の運転台 がありますので,ユニット間での車内通り抜けはできませんし,同じユニットをの車両でも連結 面はいわゆるバスの後部座席のようなタイプですので,車内の通り抜けはできません。座席配置 は4人ボックスタイプでロングシートの配置はありませんでした。外装はドア塗装が青いタイプ と赤いタイプの2種類あるようで,ドアの他,車体下部もドアと同じ赤または青で塗られていま す。正面は左右非対称で向かって右側に運転台があり,左側には大きな系統番号表示があります 。電源供給は第三軌条からでパンタグラフはありません。


左:外観。角張ったスタイル。電車は54系統(黄)
右:車内はプラスチック製シートのボックス配置。

 次に,50系統に使われていた新型車両がありました。これは旧型車両よりも車体幅が少し 狭いようで,ドアにはステップが張り出しています。こちらも2両1ユニットで4両編成から6両 編成が通常の運用のようです。ドアは旧型車両と同じく外づりですが,旧型車両が3ドアなのに 対し,新型車両は2ドアでドア位置が異なります。外装は白と青の塗り分けで,ドアや窓など 側面の凹凸が少なくすっきりした印象を与えています。前面は大きな一枚ガラスで,運転台から 行き先表示まで一枚のガラスで構成されています。運転台上部には行き先と系統番号が表示され るようになっています。内部は赤と青を基調とした内装で,座席配置は横2+2人の配置ですが, ボックスを形成しているのは一部で,あとは2人掛け座席が向きを固定されて配置されています 。こちらの車両はユニット間であれば車内の通り抜けができるようになっていました。


左:外観は凹凸のないすっきりした感じ
右:車内は赤が基調色。

 最後に51号線で使われていた車両はさらにひと回り小さな車両で,こちらも2両1ユニット, 6両編成で運用されていました。外装は角張った感じでかつてのいすずのバス(キュービック) のような顔をしています。外観の特徴では運転台脇にバックミラーが付いていることで,札幌市 電のように使用しないミラーは折りたたまれます。ドアは3ドアの外づりでこの車両にも側面に 長いステップが付いており,ホームと車両の隙間を埋めています。また他の車両にはない大きな 特徴として,電源が第三軌条とパンタグラフの両方の今日旧方式に対応しているということです 。屋根には各車両とも大きなパンタグラフがあるほか,台車にも集電シューが付いています。 2電源供給方式を採用するのは,運用線区の都合によるもので,これについては後で詳しく説明 します。車内はボックスまたは向きの固定された2人掛け席で構成され,ユニットを組む車両同 士で車内の通り抜けが可能です。車内の特徴としては,ドア付近に切符の刻印機があるという こと。これも運用される路線の都合によるもので,後で詳しく説明します。


左:いすず製バスのような顔。地下区間は第三軌条から集電。
右:車内は飾り気があまりない。

・駅
 先に触れたとおり,アムステルダムのメトロで地下区間はごくわずかで地下駅も5駅しかあり ません。駅の入口には「METRO SNELTRAM」と書かれた青いサインがあり,SNELTRAMとは「高速 トラム」という意味のようです。地下区間の5駅はどれもホーム装飾が施され,ホームの壁など に凝ったデザインが採用されています。駅のコンコースには切符の自動販売機があり,ゲート式 改札機のほかに切符の刻印機があります。


左:入口は色使いが派手なので目立つ。
右:ホーム壁には装飾が施されている。

 通常の切符を持っている人は刻印機で打刻してからゲートの開いている改札機からホーム へ入ります。改札機で切符の改札は行わず切符を持っていない人でもホームに入ることができ ます(改札後に係員による検札がありますので,そのとき切符を持っていなければ罰金の対象 になりますが)。改札機を使うのはIC乗車券を持っている人だけで,SUICAなどと同じく読み 取り部分にかざすとゲートが開くようになっています。出るときにはICカード,通常の切符とも 改札はなく,どの改札機からでもフリーパスで出て行くことができます。


紙切符を持っている人は刻印機で刻印の上,開いている改札機から入る。

・51系統の特徴
 Centraal Station駅から南部の新興住宅地を結ぶ51系統は他の路線にない特徴を持っています 。それはStation Zuid駅から先の区間でトラム5系統と一部線路を共有するのです。そのため, Station Zuid駅から先の区間では,トラムと同様の架線集電方式に変わります。つまり, Centraal Station駅から郊外に向かう電車は,Station Zuid駅までは第三軌条から集電し, パンタグラフはたたまれています。Station Zuid駅に到着するとパンタグラフを上げ,集電方式 を変更します。第三軌条はこの駅で途切れます。


51系統終着駅。パンタグラフが高々と上げられている。

 トラムとの共有区間の駅では高いホームと低いホームの両方があり,高い方のホームに メトロ車両が停車します。Station Zuid駅から先の区間は地下鉄の「駅」というよりも「停留 所」という感じで駅舎はもちろんのこと,改札機もなくホームがあるだけです。よって,51系 統で使用される車両には車内に切符の自動販売機と切符の刻印機があるわけです。


左:トラムとの共有駅。駅舎も改札口もなく駅というより停留所。
右:51系統に使用される車両には切符の自動販売機が設置される。

 線路はまさにトラム軌道といった感じで道路の中央に位置し,当然道路との平面交差も あり,道路の交通信号や踏切で交通を整理しています。ですから,地下鉄でもタイミングに よっては道路交通信号待ちが生じます。このような方式の地下鉄は限りなくトラムに近く, まさに「高速トラム」といった感じです。アムステルダムの地下鉄は地下区間の割合も低く, さらに51系統のようなシステムを採用しているので,ブリュッセルのプレメトロと並んで 「地下鉄の定義とは何か?」を考えさせられる非常に微妙な「地下鉄」だと思います。


地下鉄車両とトラム車両のすれ違い。


参考資料:

  • 日本地下鉄協会『最新世界の地下鉄』,ぎょうせい,2005.6。

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    2009/1/25作成
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