特別研究室

ベルギー・ブリュッセルの地下鉄の紹介

メトロとプレメトロの2種類があります。


オレンジ色の顔が印象的


 ベルギーの首都,ブリュッセルの地下鉄は大きく2つのタイプがあります。1つは通常の 鉄道車両が地下線を走る地下鉄で,ブリュッセルではこれをメトロと呼んでいます。もう一つ はトラムが地下線を走るもので,プレメトロと呼ばれています。ここでは特に前者のメトロを 中心にご紹介します。

 メトロの路線は全部で3路線。ブリュッセルを東西に横断して走る1号線 は,郊外で分岐してX字のような路線形態になり起終点は東西それぞれ2か所ずつ全部で 4か所あります。1号線は東西の終点を結ぶ形で2系統あり,それぞれ1A線と1B線と呼ばれて います。一方,2号線はブリュッセル中心部をほぼ環状に取り囲む路線で,現在は「コ」状に なっており,完全な環状運転ではありませんが,現在延伸工事が行われており,将来的には 完全な環状運転が計画されています。通行方式は右側通行が基本ですが,後で説明しますが, 一部区間は左側通行になっています。集電は第三軌条から行います。駅名などの表記はフランス 語とオランダ語の2つあり,想像もつかないくらい全然違う名前が実は同じ駅を指すことも ありますので,注意が必要で,たとえば2号線のArts-Loi駅とKunst-Wet駅は同じ駅です (前者がフランス語表記,後者がオランダ語表記)。

 料金は1ユーロ50セント(2008年3月現在約240円)で1回1時間まで有効です。この他5回 回数券,10回回数券,1日券などが発売されています。駅には改札はありませんが,刻印機が あり,購入した切符は刻印を入れて有効にしなければなりません。ちなみに自動改札機しかない 駅があり,支払いはICチップ付きクレジットカードかコインで,紙幣は使えませんので注意して ください。改札機がないので,切符を買わずにホームに入ることはできますが,検札の際, 切符の不所持が発覚するととてつもなく高額な(駅係員は84ユーロと言っていた)罰金が 科されます。


メトロとプレメトロ。プレメトロはトラムが地下線を走行するもの。

 車両はフランスリヨンの地下鉄に似たオレンジ色の顔を持つ4ドア車両で,車内は背もた れの高いクロスシートが並びます。車両間の通り抜けはできません。運行は2+3両の5両編 成が基本のようですが,これ以外の組成もあるようです。ドアはパリメトロMF67のような手動 開き自動閉めタイプです。ただし,MF67よりもずっと大きな取っ手を強く引かないとドアは 開きません。車両の一部には自転車を積むスペースがあり,そこには座席がありません。車内 放送は一部の車両を除いて行われませんが,車内にはどちらのドアが開くかを表示するサイン があります。

 また,新型車両は6両編成となり,ボタン開き自動閉めのドア,貫通路設置による車両間 の通り抜け,自動放送が新たに導入されました。室内も先頭車両にはクロスシート,中間車両 にはロングシートの配置に変わっています。どちらの車両も運行形態はワンマンで車掌常務は ありません。新型・旧型いずれの車両もパリメトロやリヨンメトロとよく似た感じですので, フランス製の車両であることはほぼ間違いないでしょう。


旧型車両。車内はハイバックのボックスシート。


新型車両。車内は一部ロングシートで,貫通路により車内の通り抜けができるようになった。

 各駅とも基本的には箱形の構造です。駅構内の基本装飾というのはないようで,各駅それ ぞれに異なった装飾がなされています。ちょっとしたオブジェがある駅,壁に絵が描かれている 駅,モザイクのようなタイル張りの駅など,同じデザインの駅は2つとありません。また, 線路自体は都心部の一部を除いてとても浅いところを走っており,エスカレーターで降りて すぐホームという駅もあります。これは,ブリュッセルの地下鉄では改札が行われていない ため,切符の自動販売機をホームに設置することで地上とホームをエスカレーターで直結できる わけです。


左:駅のホーム。右:入口は斬新だが,パリメトロのように周辺の景観とは必ずしもマッチしていない。


ホーム装飾もいろいろ。

 【2011年3月追記】
2010年12月の訪問時には主要駅に改札機が設けられていました。既に稼働している駅もあり, 今後順次改札機での検札方式に変わるようです。一斉導入ではなく,完成した駅から導入する という,これまた日本では考えられない方法が採られていますね。


左:すでに稼働中の改札機。右:こちらはまだ工事中。

 各駅には電車の接近表示がありますが,全線の路線図上に電車のいる位置を表示し, 列車の接近情報を知らせるものです。これは他都市には見られない独特のタイプです。なお, 路線ごとの運用車両の違いは特にないようで,どの路線も原則としてオレンジ顔の車両が 走っていますが,路線案内にはライン別カラーを採用し,1A線が黄色,1B線が赤,2号線は オレンジとなっています。ただし,全ての案内表示でこのラインカラーを厳密に採用している かというとそうでもなく,全ての路線がオレンジ色で示されるところもあるようです。駅の 入口には大きな青地白抜きの「M」マークがあります。だいたいの入口にはエスカレーターが 設置されていますが,止まったままのものもかなりの数見かけました。


左:電車のいる駅が赤く点灯する。オレンジ色の表示はこれからこの駅以降に停まる駅
右:行き先案内。左下の囲みの駅へは左側のホームから,それ以外の駅へは右側のホームから。


左:入口サイン。青い大きなM字。右:ホームから地上までエスカレータ一本だけど,止まっていた。

 1A線はブリュッセル北西部と南東部を結ぶ路線で,途中のBeekkant駅とMerode駅の間, 1B線と線路を共有します。そして,1A線は合流・分岐駅であるBeekkant駅で進行方向が変わる のです。Beekkant駅での折り返しは下図のように行われ,1A線でブリュッセル郊外から来た 電車は青い線のような運転をします。一方,ブリュッセル中心部からの電車は,下図の赤い線の ような経路を通ります。

 このとき,1A線のBeekkant駅から郊外への線路は図に示すとおり,通常とは反対の左側 通行となるのです。もしこの区間の通行形態を他と同じ右側通行にするためには,上下線を 入れ換えなければならず,余計な建設コストがかかることは間違いないでしょう。建設コスト を安くするためなのかはわかりませんが,日本ではなかなか出てこない発想だと思います。 それにしても,地下鉄路線での進行方向逆転運転や路線の一部の通行形態が反転というのは とても珍しい例ですね。

 プレメトロとは,トラムが地下路線を走るものでヨーロッパでは一般的なものですが, ブリュッセルでは特にプレメトロと呼ばれ,通常のメトロ(地下鉄)と区別されています。 駅の設備はメトロと同じですが,ホームの高さがトラムの乗降口に合わせてかなり低くなって います。使用される車両はもちろんごく普通のトラム車両ですので,メトロとは違い架線 集電方式になります。将来的には本格的メトロ線に転換できるようになっているようで, ホームの高さが一部高くなっているところもあります。切符の自動販売機などホーム以外の 設備はメトロと変わりません。メトロへの転換はホームの高さをかさ上げし第三軌条を設置 するだけで済みそうです。


プレメトロホームは一部が低くなっている。やって来るのは普通のトラム車両。

 2010年の12月に2年9か月ぶりに再びブリュッセルを訪れました。この時には2年前に 工事中だった部分が開通し,都心を囲む環状路線(線路自体は完全な環状に繋がっていない)が 完成していました。そして,これまでの1A線,1B線,2号線という名称は改められ,1,2,5,6号線 という名称に改められました(3,4号線はプレメトロ,7号線は郊外トラムの路線名に使用)。使用 する線路で分類すると,1号線と5号線,2号線と6号線という分け方ができます。今回の路線再編に 伴い,これまでの1A線は環状部分と合わせて6号線として6の字運転が行われるようになり, Beekkant駅での進行方向転換は見られなくなりました。また,6の字の結合部分であるSimonis駅は Simonis(Elisabeth)とSimonis(LeopoldII)駅というように,サブネームが付けられて区別される ようになりました。現在の路線図は運営会社であるSTIBのホームページ の"Preparing your journey"から”Network Maps"を選択すれば見ることができます。

 さて,この6の字運転,さらに変わったところがあります。それは途中で左右の通行方式が 逆転することです。6号線の電車はSimonis(Elisabeth)駅を始発で出発する時点では右側通行でした。 しかし,環状の線路を1周してSimonis(LoepoldII)駅に戻ってきた時には左側通行となって戻って きます。その先,旧A1線部分も当時と同じ左側通行はそのまま維持されているのです。つまり, Simonis(Elisabeth)を出てから,都心を1周してSimonis(LoepoldII)駅に戻ってくる間に左右の通行 方式が入れ替わっていることになります。タネを明かすと以下の図のとおり。途中Gare du Midi駅 が上下2層式となっていて,ここで左右の通行方式が入れ替わるのです。左右の通行方式が逆転する という珍しい事例にさらに6の字運転が加わり,ねじれ6の字運転というますます面白い運行形態に なりました。


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2011/3/22更新
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