特別研究室

ハンガリー・ブダペストのメトロ介

旧ソ連の車両が未だ使われています。



最古参の旧ソ連標準型車両。日本の客車のような正方形の窓が何となく懐かしい。


・概要
 ブダペストの地下鉄は1〜4号線の4路線あり、走行システム的には、ヨーロッパ大陸で最も古いと言われる1号線と標準的な仕様の他3路線に分けられます。料金制度は1回券、10回回数券、乗り継ぎ券の他、24時間券、72時間券が通常我々観光客が使う切符になるでしょう。乗車券はトラム、バス、近郊電車と共通で、乗り換えがある場合には乗り継ぎ券を買う必要があります。IC乗車券のようなものはなく、磁気記憶媒体もない普通の紙の切符を使っています。信用乗車方式なので、切符の購入後、階段またはエスカレーターでホームへ降りる前に刻印機に切符を通して刻印する必要があります。改札はありませんが、すべての駅で常時ホームへの階段、エスカレーターに係員が立って切符の確認をしています。


左:欧州大陸最古と言われるブダペストメトロ1号線。
右:2〜4号線の入り口はMが重なった黒いマーク。

・車両
 1号線は古い走行システムがまだ使われており、3両編成の短い電車は連接式で、運転台および車端部にある台車部分の床が少し高くなっている黄色い車両です。集電は架線集電ですが、トンネルの高さはかなり低いので、架線と車両の屋根の間にほとんど隙間はなく、パンタグラフはほとんど見えません。車両はとても短く、3両でも通常の車両の1.5両分くらいでしょうか。各車両に両開きのドアが2つあり、ドア間に1人掛け向かい合わせの座席、車両端に4人掛けの座席が並ぶ配置です。


左:ホームは低く連接部の台車が見える。
右:1号線の入り口はレトロなもの。十数段階段を降りるとすぐホーム

 2号線、4号線の車両は同じ外観の新しい車両が使われており、2号線は5両編成、4号線は4両編成で運用されています。この車両で外観は白い顔に側窓が黒という塗り分けで同じ車両のようですが、4号線のほうは無人運転されています。前面の半分が非常用の扉になっており、前面はちょうど左右対称の顔になっています。最近の欧州各国の地下鉄車両と同様、車内は冷房が付いており、車両間の通り抜けも可能です。4号線の車両には乗務員室が完全に仕切られたタイプと、乗務員部分が開放され簡易運転台があるタイプの先頭車の2種類があるようです。それ以外の部分はまったく同じで、乗務員室の有無が番号で区分されているわけでもなさそうなので、もしかしたら必要のない乗務員室を客室に改造している最中のかもしれません。


左:2号線、4号線の車両。どちらも外観は同じだが2号線は有人運転、4号線は無人運転。
右:車内は横掛けのシートが並ぶ一般的なもの。


4号線車両車内。同じ形式でも運転台が開放されているタイプと閉鎖されているタイプの2種類がある。

 3号線の車両は、無骨な旧ソ連標準型車両6両編成で、各車両ドアは4つの日本の通勤型車両と似た大きさの車両です。青い塗装は剥げ落ちたり色褪せたりしているものもあり、あまり状態の良いものではありません。旧ソ連標準型車両にも2種類あり、1つは前面が中央に貫通扉を配し、左右に正方形の窓がある車両で200番台の番号が付されていました(200形とします)。この車両は中間車がなく、6両全て方運転台の同一形式の車両です。車内はロングシートですが、室内灯が白熱灯で、かつての日本の旧型客車のようです。その電球も本当の白熱球と電球型蛍光灯の2種類があり、本当の白熱球が付けられている車両は、地下区間ではあきらかに暗く、日本だとほとんど非常灯のような感じ。新聞や雑誌を読むのも苦労するくらいです。


左:最古参の旧ソ連標準型200形車両。東欧圏諸国あちこちで見られたこの車両も淘汰が進み、今では世界的に見ても貴重な存在。
右:200形車両の車内。白熱灯の車内灯は日本では旧型客車の中でもかなり古いタイプにしかなかったが、ブダペストメトロではバリバリの現役。

 もうひとつの車両(車両番号300または3000番台、)は同じ旧ソ連標準型車両でももう少し新しい車両のようで、運転台を中央に配して中央に大きな窓があり、その脇に縦長の小窓が配される車両です。窓周りはブラックアウトされています。こちらの車両も4ドア20m級というのは同じなのですが、こちらには中間車(車両番号3000番台)があり、編成は300+3000+3000+3000+3000+300の6両編成で中間先頭車は編成に組み込まれていません。 車内は200形と同じですが、室内灯は蛍光灯が天井中央に1列に配置され、200形と比べて車内の明るさは比較にならないほどです。300系の内装の壁は緑色とベージュの2種類があり、更新工事が行われたものなのか、もとから仕様が異なるのかは不明ですが、ベージュの化粧板のほうが何となく新しく見えるので、更新工事で化粧板を変えた可能性が高そうです。


左:3000形車両。こちらと同じタイプの車両はまだいくつかの旧ソ連圏の国で見られるようだ。
右:こちらの3000形は中央下部に4つのライトを装着。


3000形の車内。内装の基調色はいくつか種類がある。

・駅

 1号線は地下浅い駅で低くて短いホーム、短い駅間距離が特徴です。どの駅もタイル張りのレトロな内装で統一されており、駅ホームには駅係員の監視小屋が設置されています。天井は低く、すぐ天井の上が地上面という感じで、ホームに下りるにも20段ほどの階段でアクセスできます。地上の道路にいると、下を走る1号線の電車の振動が足下に響いてきます。1号線の駅は基本的に入口は方面別。行きと帰りでは道路を渡った反対側の入口を使わなければなりません。駅の入口は黄色い柱に茶色い文字でかかえたサインがあります。パリメトロのサインに似た雰囲気があるレトロなサインです。階段の柵も黄色で統一されており、車両と共に黄色が使われており、1号線全体での統一感があります。


左:1号線の入り口は方面別。階段を下りればそのままホーム。黄色の柵がきれい。
右:1号線のホーム。決して古臭いわけではなく、レトロできれいな装飾。


左:鉄骨の柱は緑色に塗られ、とてもきれい。
右:電車の屋根と駅の天井の間にはほとんど隙間がないが、それでも架線終電方式を採用している。

 2〜3号線は都心部ではかなり地下深いところを走る区間があり、エスカレーターで地下深く潜って行きます。エスカレーターはかなり速度が速く、日本のエスカレーターの2倍くらいの速度はありそうです。4号線もドナウ川を地下で渡るため、地下深い駅がありますが、こちらは新しい路線であるため、エスカレーターの速度もそれほど速くなく(それでも日本から比べるとかなり速い)、標準的といったところでしょうか。4号線は無人運転を行う関係でホーム端に注意喚起のためにLEDで光る線があり、列車が来ないときは青、接近中は黄色で点滅します。青い線になっているときに線を跨いでホームの端に出ると、警告のアナウンスが流れます。


左:3号線の駅入り口。この駅はめずらしく駅舎付き。駅舎に入るとエスカレーターがある。
右:3号線のホーム。2号線や4号線から比べると設備は古くて汚い。


左:4号線のホーム。長いエスカレーターを下りて到着。
右:4号線は無人運転のため、ホーム端では列車の接近を知らせる青い警告灯が点滅する。

 駅の入口には黒地に白いMマークがありますが、厳密に駅入り口に設置されているのではなく、駅がある付近の交差点に印されているため、ちょっと駅入り口はわかりにくくなっています。地上部分に駅舎がありそこに自動券売機と刻印機があり、そこから長いエスカレーターに乗ってホームに下りる駅や階段1階分下りて地下コンコースに自動券売機と刻印機があるタイプが多いようです。1号線はこのようにきれいな駅になっており、2号線も大規模な改修工事が近年行われたらしく、きれいな駅ばかりです。4号線もつい最近できたので、斬新な造りの駅になっています。唯一3号線の駅だけが一番古く暗くて汚いです。3号線は車両も古く旧来のブダペストメトロの雰囲気を一番味わえる路線ですが、2号線があれだけきれいに更新されたのを見ると、旧ソ連標準型車両ももう限界を越えている状況ですので、3号線でも同じ更新工事が近いうちに行われるだろうということは容易に想像できます。


左:交差点の真ん中にあるMマーク。
右:2号線のホーム。ホーム装飾も施されきれい。

 駅のエスカレーターの乗り口などには必ず係員が立って切符の確認をしています。また、地上からホームまでの直行エレベーターのある駅では、エレベーターを降りたホームに係員が立っています。つまり、メトロに乗るには必ずどこかで係員に切符を見せなければ乗れないような状況になっています。さらに4号線にはホーム監視員が各駅のホームに2名ずつおり、無人運転の電車の安全確認をしています。安全確認と言っても、日本のような指差喚呼や放送での注意喚起、アナウンスはなく、ただ立って眺めているだけです。あまり生産的な人員配置とは思えませんが、これも雇用対策の一つなのでしょう。


左:ホームからの長いエスカレーター。
右:エスカレーターのステップは木製だった。

・今乗っておくべきは3号線の旧車両!
 ヨーロッパ大陸最古の1号線も面白い地下鉄ですが、こちらはすでに路線自体が世界遺産になっていますので、このままきれいに保存されることは間違いありません。それとともに3号線も旧ソ連標準型車両の武骨な雰囲気を多分に感じることができる貴重な路線ですが、こちらは近日中に車両更新、駅改装が行われてもおかしくない状況で、今乗るべきは3号線のほうでしょう。


レトロなこの車両が活躍するのはいつ頃までか...


参考資料:

  • 日本地下鉄協会『世界の地下鉄ビジュアルガイドブック』、ぎょうせい、2015.10。

  • 特別研究室へ戻る
    入り口へ戻る

    2017/11/18作成
    inserted by FC2 system