パリメトロ車両の解説(総説)

古参車両が活躍しています。


最古参車両MP59型。更新時にサフォーク顔に整形・化粧直しした。
(4号線Les Halles駅)


 パリメトロの車両は古参ゴムタイヤ車両のMP59から最新の無人運転車両MP89まで6形式が 活躍しています。どの車両も白と緑のツートーンカラーで全長は約15mの小断面トンネル用の比較的 小柄な車両です。両開き4ドアまたは3ドア車が3両〜6両で一編成を組成しています。90年代以降 に導入された1・14号線のMP89,7bis線のMF88を除いて車両間の通り抜けはできません。車掌は 乗っておらず,運転士だけの乗務によるワンマン運転となっています。乗務員は車両の中央部に 乗っており,ドア開閉時も運転席に着席したままドア操作をします。乗降の確認はホーム端に 取りつけられた拡大鏡かモニターで行い,ドア閉めのタイミングを見計らいます。

 走行方式は鉄車輪と鉄車輪とゴムタイヤを併用した方式との2種類があり,ゴムタイヤ併用式は カナダのモントリオールのものと同じ方式(パリメトロの技術をモントリオールが採用した) シングルタイヤの内側に鉄車輪があるタイプです。車両形式のMFは"Material Fer"は「鉄の」という 意で鉄車輪車両を,MPは"Material Pneu"の略で「タイヤの」の意でゴムタイヤ併用式車両を表します。 また,形式の数字は何らかの年代を表しているようです。MP59,MF67,MP73などの車両では鉄車輪式 (MF型)とゴムタイヤ併用式(MP型)で車両筐体の基本的構造にあまり大きな差はありません。 集電方式はどちらの方式も第三軌条集電で架線集電タイプはありません。

 パリメトロはとても急カーブが多いので,どの形式も車端部側面が線路中心に向かって 絞られています。そのため,MP59,MF67,MP73の4ドア車両は車端部の両開きドアが若干「へ」 の字型に閉じるようになっています。また,MF77では車端部側面がさらに強く絞られ, 独特のスタイルになっています。

 MP73までの車両では,電車が駅に到着すると,ドアのロックが解除されるので,ノブを自分で 引き上げると開けられます。一定速度以下になるとドアのロックが解除できるらしく,完全に停止 する前にドアを開けることができます。一方閉まるときは自動でブザーが鳴った後に閉まります。 分厚いドアな上,閉まるときは相当な勢いで閉まる車両もありますので,挟まれたりすると怪我を するかもしれません。ワンマン運転で車掌の乗務はないのですが,運転士がドア操作をしています。 MF77およびMF88ではボタン操作でドア開閉ができ,MP89では開くときも自動となりました。 閉まるときにブザーが鳴るのはどの車両も共通です。

<2008年1月追記>
 2006年にMF01(2007年の量産車登場まではMF2000と呼ばれていた)の登場により,パリメトロ の車両は全部で7形式となりました。

<2012年9月追記>
 2011年にMP05がの登場し,パリメトロの車両は全部で8形式となりました。


MF67型はW(プロトタイプ)のほか,導入時期によりAからFまでのタイプがある。
左:9号線用MF67A-D(Porte de St-Cloud駅),右:2号線用MF67E(La Chapelle駅)

車両形式導入初年走行路線総車両在籍数(注1)編成数(注1)編成両数
MP591963年4・11号線390両49編成(6両)・24編成(4両)6両(4号線)・4両(11号線)
MF671967年2・3・3bis・5・9・10・12号線1482両(注2)286編成(5両)・5編成(3両)5両(2・3・5・9・10・12号線)・3両(3bis線)
MP731974年6号線234両46編成(予備車4両)5両
MF771978年7・8・13号線983両196編成5両
MF881993年7bis線27両9編成3両
MP891995年1・4号線(CC型)・14号線(AC型)438両52編成(CC型)・21編成(AC型)6両
MF012006年2・5・9号線(注3)800両(注3)160編成(注3)5両
MP052012年1・14号線426両(注4)71編成(注4)6両

注1:総車両在籍数と編成数は2003年現在,走行路線は2011年10月現在。
注2:1999年時点。訓練車両,事業用車両,予備車を含む。
注3:現時点での計画。2016年まで年平均20編成ずつ導入予定。
注4:現時点での計画。1号線53編成,14号線18編成を導入予定。
出所:Brian Hardy『Paris Metro Handbook』1999
            Jean Tricoire『Un Siecle de Metro en 14 Lignes』2004
RATPウェブサイトhttp://www.ratp.fr

 パリメトロ車両形式表記はかなり複雑です。パリメトロのMF88,MP89以外の車両 では車両形式が車体本体には書かれていません。アルファベット1文字とそれにそれに続く4桁 または5桁の数字が書かれているだけです。まず,アルファベットで車両形態(動力車,先頭車, 旧1等車,旧2等車など)を区別し,次に数字で車両形式の区別ができ,車両形式および車両形態に より違った番号が与えられています。アルファベットと数字の意味は下の表のとおりです。 ちなみに,かつてはパリメトロにも1等,2等の区別がありましたが,今は廃止されています。

 一方,MF88以降の車両では形式表記方法が変わり,車両の形式番号をアルファベットの前に冠する ようになり,かなりわかりやすくなりました。アルファベットに続く数字は車両番号で001から順に ふられています。なお,日本でいう1次車,2次車の表記はA〜Fのアルファベットで表記し,MF67の 1次車はMF67A,最終型はMF67Fとなっています。ただし,MP89ではCC型に0番台,AC型には1000番台の 車両番号が充てられ区別されています。

アルファベット車両形態JRでの表記(注1)
S旧2等先頭非動力車クハ
M旧2等先頭動力車クモハ
N旧2等中間動力車モハ
A旧1等中間非動力車サロ
B旧2等中間非動力車サハ
NA旧1等中間動力車モロ

注1:JRでの表記は,パリメトロの旧1等車をグリーン車,旧2等車を普通車と想定した。
出所:Brian Hardy『Paris Metro Handbook』1999

形式アルファベット番号
MP59M3000〜3200番台
N4000〜4200番台
A6000〜6100番台
B5500〜5600番台
MF67S9000番台
M10000番台
N11000番台
NA12000番台
A13000番台
B14000番台
MP73M3500番台
N4500番台
A6500番台
B7000番台
MF77M30000番台
NA31000番台
B32000番台
MF88M88 M 000(注1)
B88 B 000(注1)
MP89S89 S 000(注1)
N1(注2)89 N1 000(注1)
N2(注2)89 N2 000(注1)
MF01S1(注2)01 S1 000(注1)
S2(注3)01 S2 000(注3)
N1(注3)01 N1 000(注3)
N2(注3)01 N2 000(注3)
N3(注3)01 N3 000(注3)
MP05S1(注4)S1・RA-500(注4)
S2(注4)S2・RA-500(注4)
N1(注4)N1・RA-500(注4)
N2(注4)N2・RA-500(注4)
N3(注4)N3・RA-500(注4)
N4(注4)N4・RA-500(注4)

注1:末尾の000には車両番号001〜が入る。
注2:MP89には中間動力車が2種類あり,それぞれN1,N2と区別されている。MP89の編成はS−N1−N2−N2−N1−S。
注3:MF01の編成はS1−N1−N3−N2−S2。末尾の000には編成番号001〜が入る。
注4:MP05の編成はS1−N1−N2−N3−N4−S2。末尾の500には編成番号501〜が入る。
出所:Brian Hardy『Paris Metro Handbook』1999

 次に,車両の正面に書かれている数字についてですが,上部方向幕左側に掲出される数字の 最初の桁は路線番号を表します。1号線〜13号線はそれぞれの数字,3bis線,7bis線は それぞれ3b,7bと表示されます。その後に続く数字はおそらく運行番号もしくは列車番号と 思われます。また,正面下部に貼られた数字は編成番号を表します。この編成番号は編成の 真ん中の車両(5両編成の3両目,3両編成の2両目)もしくは旧1等車(6両または4両編成場合)の 番号の下3桁です。後に詳しく説明しますが,パリメトロではループ線を使った折り返しを行いますので, 先頭車の向きは常に入れ替わります。このためなのかはわかりませんが,編成は先頭車ではなく 中間車で区別します。


MF77の62編成と194編成。編成にはそれぞれNA31062,NA31194が含まれている。
62編成のGはレール注油装置装着車両の意。(7号線Jussieu駅)

 以上,形式表現について説明しましたが,下の写真を例にして具体的に説明しましょう。 下の写真のN11202という車両について,表から11000番台がMF67に割り当てられた番号だと わかりますので,この車両がMF67であることがわかります。また表から,Nというアルファベットが 旧2等中間動力車を示すことがわかり,この車両が中間動力車であることもわかります。なお,仮に アルファベットがわからなくても,13064というだけがわかれば,上の表から13000番台に組み合わ されるアルファベットがAだということもわかり,この車両が旧1等中間非動力車だということも 判別できます。そして最後に,この編成の編成番号は旧1等車であるA13064の下3桁064となり, 先頭車前部には「064」と表示されるのです。


パリメトロの車両形式表記はとても複雑。


 MF77が使用される3路線のうち,7号線と13号線は途中で2本に枝分かれする路線です。そのため, どちらの支線に行くのかを表示する行き先表示が車体側面および室内連結面にあります。行き先 は上下2段になっている黄色と青のプレートに表示され,2か所以上の行き先は表示できない 仕組みになっています。黄色と青の表示は車内の路線案内にも同様の色が示されるほか,ホーム の発着案内にも次に来る電車がどちらの行き先なのかを同じ色の三角で表示しています。 ホームの発着案内,車両の行き先表示,路線案内とも黄色と青の表示に統一されているので, 非常にわかりやすくなっています。また,8号線でも途中駅(Les Juilliottes駅)止まりと その先最後まで行くかを区別するのに行き先表示が使われる場合がありますが,車内の路線案内 で黄色と青の表示区別はされていません。また,2号線や5号線のMF67にも同様の表示機が車内に 残っていますが現在は使われていません。

 しかし,13号線のMF77更新車ではこの表示方式が廃止されています。更新車ではドア上に 停車駅表示付きの路線案内があるので良いのかもしれませんが,乗る前の行き先確認はホーム 発着案内と先頭車全面の行き先表示のみになってしまいました。


左:ホームの発着案内。St-Denis方面は青い三角で表示される。(13号線Place de Clicy駅)
右:ホームの行き先表示の青三角とMF77の青い行き先表示。(7号線 Luis Blanc駅)


左:車体側面の行き先表示。外吊りドアが開いた状態でもドア窓を通して確認できる。
右:車内表示。St-Denis方面は青で統一表示される。


左:車内の路線案内。終点駅が行き先案内と同じ黄色と青で表示される。
右:7号線のMF77の行き先の注意表示。仏,英,独,西の4か国語表示。


  1. はじめに(当研究所ご利用にあたって)
  2. 研究所長のひとりごと
  3. パリメトロの概要
  4. 車両の解説(総説)
  5. 車両の解説(形式別)
  6. 駅の紹介(入口)
  7. 駅の紹介(ホーム装飾その1)
  8. 駅の紹介(ホーム装飾その2)
  9. 駅の紹介(ホーム装飾その3)
  10. 駅の紹介(営業・折り返し方式)
  11. 駅の紹介(構造その1)
  12. 駅の紹介(構造その2)
  13. 今後のパリメトロ近代化計画
  14. 世界各国の地下鉄の紹介
  15. 参考資料・リンク
  16. 札幌地下鉄研究所

参考資料:
Brian Hardy『Paris Metro Handbook』1999(英語)。
Jean Tricoire『Un Siecle de Metro en 14 Lignes』2004(フランス語)。
RATPウェブサイトhttp://www.ratp.fr(フランス語)。
Wikipedia"MP05"http://en.wikipedia.org/wiki/MP_05(英語)


入り口へ戻る

2014/4/20修正
inserted by FC2 system