特別研究室

ロッテルダムの地下鉄



メトロサインとロッテルダムの名物建物。


・路線
 ロッテルダムのメトロ路線は全部で5路線あり,路線名はA線からE線と付けられています。郊外で枝分かれしている路線に個別の路線名を付けているので,都心部での基本的な系統はA〜C線とD,E線の2つになり,A〜C線は市内を東西に貫く東西線,D,E線は市内を南北に縦断する南北線のようなかたちになっています。それでもC線とD線も郊外で線路を共有しているので,完全に2系統に分かれるというわけではありません。


A〜E線それぞれ独自のラインカラーで表されているが,ホームではA〜C線は赤,D,E線は青で表される。

・A〜C線
 A〜C線には3形式の車両が使われており,新型車両はD線とも共通で,外吊り3ドアの6両編成です。厳密には3両×2編成の車両組成ですが,中間先頭車に当たる中間車両には本格的な運転台がなく,おそらくは簡易運転台があるであろう運転台部分も普段は客室(自転車スペース)になっています。一方の旧型車両は4人掛けのボックスシートが室内に並んでいます。座席はプラスチック製でクッションはありません。旧型車両は車内の通り抜けはできませんが,新型車両は3両1組の編成内の車両であれば通り抜けが可能です。


左:最新型車両。RR車両に似た感じ。中:新型車両。三つ目顔。右:室内は全て横がけシート。


左:旧型車両。2両1編成が3つ繋がる6両編成。
右:室内はボックス型。

・2種類の集電方式
 アムステルダムのメトロ51番線と同じく,ロッテルダムのメトロも全ての車両でパンタグラフと第3軌条の2つの集電方式を併用しています。トンネル区間はトンネル断面を狭くするため第3軌条での集電,郊外の地上区間は道路との平面交差があったり,トラムとの併用区間があったりするので,パンタグラフ集電方式となります。この2集電方式はオランダ特有の方式で,私は他国の地下鉄では見たことがありません。


左:第3軌条集電区間。頭上に架線はない。
右:郊外の架線集電区間。

・D,E線
 E線はロッテルダム市街圏を越えてデン・ハーグ中央駅,さらにその先D線の途中駅まで運行されており,デン・ハーグ市街ではランドスタッド・レイル(RR)という別の鉄道会社と路線を共有しています。乗り入れという形態になるのかもしれませんが,その辺の状況はよくわかりませんでした。デン・ハーグ中央駅はオランダ鉄道のホームの一番端に位置する地上駅で,この次の駅からはしばらくRRの運行するトラムも同じ線路を走り,駅にはメトロ用の高いホームとトラム用の低いホームの2種類があります。RRのトラム路線が分かれた後はメトロ専用線となりますが,郊外の田園地帯を走るメトロはとても都市交通機関とは思えないのどかな地帯を走ります。

 E線はRRが保有する車両が使われ,D線にはA〜C線でも使用されるロッテルダムメトロを運行するRETが保有する車両が使われています。RR車両は3両×2編成の6両編成が基本で,先頭車には3ドア,中間車は中央部に1つだけのドアという変則的なドア配置になっています。車内は2人掛けのシートがドアの間で同じ向きに配置され,ボックス席のような4人で座れるところはありません。連結部付近には横掛けのシートもあります。


左:高いホームを通過中のRRトラム。
右:駅名標にはRandstadRail3,4番線とMetroLijnE線の表記。


左:E線車両。RR保有車両だが,正面向かって右ライト下に小さくRETのロゴもある。
右:室内は連結部に横がけシート,それ以外は前後に向いた座席。

・駅
 駅入口は黄色Mマークが目印です。改札乗車方式を採用するロッテルダム近郊の駅では階段を下りると券売機と改札機があり,紙の磁気乗車券はないので,改札機はICカードをタッチする部分だけです。エレベーターやエスカレーターが付いている駅もありますが,エスカレーターはミュンヘンのメトロと同じく1つで上下共通(上から入ると下りに動き,下から入ると上に動く)になっていました。この方式は1機のエスカレーターを効率良く使うことができる反面,しばらく反対側からの人が続くとなかなかエスカレーターが使えないというデメリットがあります。

 ホームは装飾が施されている駅もいくつかありましたが,無装飾の駅はそれほど特徴的な作りがあるわけではありません。A〜C線とD,E線の乗り換えができるBeurs駅は唯一の地下乗り換え駅です。乗り換えは階段などで上下移動するだけでそれほど遠くはありません。


左:Blaaak駅の入口。階段を上がるとトラムの乗り場。
右:券売機はトラムと共通で地上部分に配置。


左:Rotterdam Centraal駅ホーム。LEDのイルミネーションが光る。
右:唯一の地下での乗り換え駅,Beurs駅。

・信用乗車と改札方式の併用
 デン・ハーグ近郊では改札口のない信用乗車方式,ロッテルダム市内では改札方式が採用されており,2種類の運賃管理システムが併用されています。ブリュッセルメトロでは改札方式への移行段階で両方式を併用していましたが,ロッテルダムの場合は,暫定的なものではなく,RRの管理する駅では信用乗車方式,RETが管理する駅では改札方式が採用されているようですが,Rotterdam Centraal駅ではエレベーターを使った場合は改札機がなくリーダーのみが設置されている信用乗車方式でした。切符は全てICチップ化されており,1回乗車券も全て乗車前後にリーダーにタッチする仕組みになっています。オランダ全土で使われているICカードOVチップカールトも当然使えます。一日乗車券は手持ちのOVチップカールトに情報を上書きする形で発行され,OVチップカールトを持っていないと使えないようです。


左:RR管理駅。改札機はなくICリーダーがあるだけ。
右:RET管理駅の改札口。立派な改札機が並ぶ。

・使いにくいOVチップカールト
 一般的にロッテルダムメトロの乗車には1回用のIC乗車券か,OVチップカールトを使うことになります。OVチップカールトを持っていると,オランダ鉄道を含め,オランダ国内のほぼ全ての公共交通機関で使えるので,便利になる反面,それぞれの運行会社で独自の運賃ルールがあるため,わかりにくいところもあります。

通常は,乗車時にカードをリーダーにタッチし(これをチェックインという),その際にチャージされた金額からいくらか引かれます(ロッテルダムメトロの場合は4ユーロ)。その後降車した駅で再度タッチすると(これをチェックアウトという),乗車区間の運賃と4ユーロ差額が調整されるという仕組みです。チェックアウトしなければ,4ユーロが引かれたままになり,これを繰り返すとカードが利用できなくなります。通常運賃で乗車する場合はチェックイン,チェックアウトをきちんとやることで問題は回避できますが,たとえば一日乗車券を利用する場合は,手持ちのOVチップカールトに情報が書き込まれますので,特にRRの管理する信用乗車方式の駅では,その都度チェックイン,チェックアウトが必要なのか,それともタッチせずにそのまま乗車していいのかよくわからず,その辺の案内も一切ありませんでした。

私が利用したときにも,一日乗車券情報が書き込まれたOVチップカールトを持って乗りましたが,チェックイン段階で4ユーロが差し引かれるかもしれず,不用意にチェックインをすることもできません。おまけに一日乗車券はRETだけで有効ならしく,RRの管理する駅でチェックアウトすると,別に通常運賃が差し引かれましたが,その辺も一切案内はありませんでした。というような感じで,とにかくOVチップカールトは使いにくく,ストレスフルなものでした。

・信用乗車方式へのICカード導入の問題点
 ロッテルダムメトロE線では,信用乗車方式にIC乗車券が組み合わされていますが,このような方式は世界でも少数事例です。日本も含め,IC乗車券を採用している都市はどこも改札方式を採用しており,乗車時,降車時それぞれでカードをタッチすることで,乗車区間を特定し運賃を精算しています。ところが,信用乗車方式の場合,乗車時・降車時のタッチをしなくても列車への乗車が可能なわけで,特に降車時にタッチしないで駅を出た場合,精算ができずに終わってしまうことになります。これを防ぐためにオランダではチェックイン時に一定金額を差し引く方式を採用しており,ロッテルダムメトロ,デン・ハーグトラムなど,一般的には4ユーロがチェックイン時に差し引かれます。このような運賃収受方式では,以下の問題が発生することがあります。

●タッチエラー
 チェックイン,チェックアウト時にきちんとタッチすることでトラブルは回避できるのですが,ここで発生する問題点として,タッチエラーで意図せずチェックイン,チェックアウトができていなかった場合があります。改札方式の場合は,きとんとチェックインできなかった場合はゲートが閉まる(もしくは開かない)のではっきりわかりますが,信用乗車方式の場合はそういうことがないので,自分がきちんとチェックイン,チェックアウトできたかどうかは,あっという間に消えてしまう読み取り機の表示(オランダ語!)と音でしっかり確認しなければなりません。

●タッチしたかは頭で覚えないといけない
 もう一つ,チェックインしなくても乗れるということは,自分がきちんとチェックインしたかどうかを頭で覚えてなければならないということです。つまり,私のようなおっちょこちょいの場合,電車に乗った後になって,「あれっ,乗った駅でチェックインしたかな?」ということがあるわけです。チェックインしたかどうかを事後に確認する方法はありません。また,カードを2枚以上持っている場合,どちらのカードでチェックインしたかも覚えていなければなりません。

●チェックインとチェックアウトが同じ読み取り機で行われる
 さらに,もしチェックインを忘れていた場合もしくはチェックインしたカードと違ったカードでチェックアウトした場合,降車駅でチェックアウトしたと思ったのが,実はチェックインになってしまい,4ユーロ引かれたまま駅を後にしてしまうという悲劇が発生します。これはチェックインとチェックアウトが同じ読み取り機で行われることからくる問題です。

 これらの問題点は,信用乗車方式でICカードを導入することの難しさを端的に表していると思います。そもそも信用乗車方式でICカードを導入すること自体,無理があるような気がしました。なお,私が指摘した問題点はE線のRRの管理する駅で起こりうる問題点です。RETが管理するロッテルダム市内のメトロ駅は改札方式で乗車時,降車時にカードの問題があったとするとゲートが開かないだけですので,このような悲しいトラブルは起こりえないと思います。


左:RR管理駅のICリーダー。これには大いに悩まされた。
右:OVチップカールト。これはオランダ鉄道発行のもの。

参考資料:

  • 日本地下鉄協会『世界の地下鉄 151都市のメトロガイド』,ぎょうせい,2010.3。

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    2013/3/24修正
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