特別研究室

サンフランシスコの地下鉄

アメリカの先駆的な地下鉄です。



高架線を走る8両編成の電車。


・概要
 サンフランシスコの地下鉄は、大きく二つあり、一つはムニメトロと言われる、LRTを地下化したもので、サンフランシスコ市内のみにネットワークを巡らせています。もう一つはBARTと呼ばれるサンフランシスコのより広域な近郊輸送を担う鉄道で、サンフランシスコ市のみならず、バークレーやリッチモンド、オークランド、ピッツバーグなどの複数の土都市を範囲とした広域近郊鉄道網です。今回のここではBARTを紹介したいと思います。

 BARTはBay Area Rapid Transportの略で、サンフランシスコ湾を挟んだ湾岸地区の鉄道で、直訳すると、「湾岸地区高速輸送機関」といったところでしょうか。車社会のアメリカにしては珍しく、鉄道による都市圏輸送が発達しているのがサンフランシスコ周辺の特徴で、その中で中心的な役割を果たしているのがBARTになります。サンフランシスコ市自体は半島の岬の突端に位置しているため、アメリカ本土の鉄道網は基本的に都市圏輸送には使われておらず、岬の突端のサンフランシスコ市とサンフランシスコ湾を挟んだ対岸とは地下トンネルを経由したBARTとフェリーが実質的な公共交通機関となります。

 BARTの路線はレッド、イエロー、ブルー、グリーン、オレンジの5路線があり、このうちオレンジラインだけがサンフランシスコ市を通らず、対岸地区だけで完結する路線です。また、サンフランシスコ空港へはイエローラインが乗り入れています。軌道は基本的にどの路線も共有で、末端部で枝分かれしている路線によって路線名が区別される感じです。

 料金は距離制で、磁気カードの紙切符またはICカードに所要の運賃をチャージして切符を購入する形式です。紙の切符もチャージを繰り返せば何度でも再利用することができます。下車駅でチャージ額が不足する場合は清算もできますので、日本の運賃収受システムとかなり似た感じです。運賃は日本から比べる高めの印象です。


左:サンフランシスコ市中心部の駅。BRATとMUNIMETROの2つのマークが駅名の左右に並ぶ。
右:BART運営会社はオークランド空港への輸送機関も運営。この車両はケーブルカーで、ワイヤーにけん引されて走る。

・車両
 車両は第三軌条終電方式、軌間は広軌です。基本的に1形式のようですが、先頭車が貫通型か非貫通型かの2タイプがあります。当初は非貫通型のみでしたが、1979年に発生した海底トンネルでの火災事故以来、貫通型が配備されるようになったようです。サンフランシスコ市内に乗り入れないオレンジラインを除いて、7~10両編成の長大編成で運行されており、4両、5両、6両などのさまざまな編成があります。その際貫通型車両が中間先頭車になり、例えば10両編成には4+6両編成、5+5両編成、8+2両編成などの組み合わせがあるようです。郊外のみを走るオレンジラインは閑散路線のため、5両や4両編成が多く見られました。非貫通型と貫通型と、編成の前後で異なる先頭車を持つ編成もありました。

 外観は白いFRP製の前面が特徴ですが、非貫通側は1972年の開業当初からこの車両は使われており、東京メトロ千代田線の6000系や札幌地下鉄3000系のような、左右非対称の大きな前面窓が特徴です。窓のないところにはBARTの「ba」マークが描かれています。40年以上前のデザインの車両ですが、デザイン的には古さを感じるものの、登場当時は斬新だった感じがします。もう一つの貫通型は、中央に貫通扉が付き、運転台の部分しか窓がないタイプです。アメリカの鉄道車両によく見られるようなデザインですが、台形型の窓は運転台下部まで広がり少し大きめです。側面は1車両に両開きドアが2つある2ドア車両で、腰には細い青い帯が4本巻かれており、戸袋部分にbaバークが記されています。先頭車の乗務員室部分にも乗務員用の扉はなく、乗務員は客室ドアから出入りします。行き先表示は前面下部にしかなく、側面にはありませんので、同じホームに行き先の異なる電車が発着しますが、行き先はホームの案内表示で確認するしかありません。

 車内は一方向に向きが固定された2人掛け座席が並び、ドア付近は横掛けの2人座席、車端部にボックスシートがあります。欧州などで見られるようなFRPの座席ではなく、布製のクッション性の高い座席が並んでいます。運転台のある中間先頭車も含めて、車両間の通り抜けも可能です。この他、車内には自転車を載せるスぺース、車いすスペース、優先席がそれぞれ別々に配置されています。かなり高速(100km/h以上?)で走ることもあり、走行中は走行音がかなり車内に響き、決して快適な車内ではありませんでした。

 運転は自動運転ですが運転士が乗務しており、駅の出発時には運転士が窓から顔を出して後方確認をして、駅間では肉声の車内放送で駅名案内をしています。運転士が発車時に前方を見ずに後方確認するのはちょっと驚きました。


先頭車は2種類あるが、基本的に同形式。貫通型のほうが後で登場した。


左:最大10両と、欧米の都市輸送鉄道としては長大編成。
中:車内は固定式の座席。ドア間に7列の座席があり、3列と4列で向きが逆になる。
右;貫通型は中間先頭車としても運用される。乗務員室にドアはない。


左:中間先頭車の連結部分。通り抜けも可能。
右:中間先頭車の運転台を覗いてみた。

・駅

 駅は都心部の地下駅と郊外区間の高架駅があり、地下駅は都心部の数駅の他、対岸のオークランド、バークレー付近にもあります。このうちオークランド市内にある2駅は上下2層構造になっており、上層は1面2線、下層は1面1線の構造になっています。オークランド付近は南部フレモント、ダブリン方面と北部リッチモンド、ピッツバーグ方面、サンフランシスコ方面の3方面の路線が混じるBART路線の要になっており、三角線構造になっている関係で、この付近の駅も複雑な構造になっています。

 地下駅の入り口にはやはりお決まりbaマークが立っています。コンコースへ下りると券売機と改札機が並んでいます。サンフランシスコ都心部の一部駅はムニメトロと乗り換えができますが、料金体系は全く別なので、日本の鉄道と同じくそれぞれに券売機と改札機があります。改札機は切符を挿入して切符取り口から切符を抜くと扉が開く仕組みになっています。ホームは10両編成分あるので、かなり長いです。行き先表示は路線名、行き先とともに列車の到着までの時間が分:秒で表示されますが、秒数が逐次変わるものではありません。到着前には自動放送もありました。2ドアとドア間の間隔があるので、ホームでは乗客に乗車位置を知らせるため、ホーム寄りのタイルの色が変えられており、そこが乗車目標になっています。乗客も黒いタイル部分に並んで整列乗車していました。

 駅構内やホームには装飾はありませんが、清潔感があり薄汚い印象は全くありませんでした。


左:駅入り口に立つbaマーク。
中:郊外の駅。吹き抜けになっており、地上への階段から改札、ホームまで見える。
右:2層構造の駅。ホームへのエスカレーターが2本。


左:コンコースと券売機。
右:改札機は切符を取ったら開くタイプ。


左:ホームの表示は行き先と両数、到着までの分数。
右:ホームには乗車目標があるので、乗客は整列乗車する。

・総評

 車社会のアメリカでは都市圏輸送でも鉄道があまり発達していない都市が多い中、サンフランシスコ都市圏のBARTは先進的な鉄道システムだと思います(と言っても鉄道輸送が発達している日本と同じレベルかそれ以下ですが)。BARTのシステムは距離制料金で入出上時の改札機通過が必須で他の交通機関と独立した料金体系、10両編成といった長大編成での運行、整列乗車の採用など、日本の鉄道システムとかなり似たものだという印象でした。その分、「目からウロコ」的なカルチャーショックは少ない地下鉄でしたが、このシステムが1970年代から採用されているということに、サンフランシスコの都市圏公共交通機関整備の長期的な視点が感じられると思いました。このような都市圏公共交通機関網が他都市でも採用されればいいですね。一方このような先進性を持つBARTでも、車両などの老朽化は否めず、アメリカにおける社会インフラ全般への投資不足の側面も垣間見られました。


参考資料:

  • 日本地下鉄協会『世界の地下鉄ビジュアルガイドブック』、ぎょうせい、2015.10。

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    2018/8/5作成
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