特別研究室

シンガポール地下鉄の紹介

日本とフランスの地下鉄の技術が導入されています。



郊外の高架線を走るシンガポール地下鉄


・概要
 シンガポールではMRTと呼ばれる市内交通機関があり,これが日本でいう地下鉄に 相当します。MRTとはMass Rapid Transitの頭文字で,まさに「大量高速交通機関」に なります。路線は南北線,東西線,北東線の3路線あり,東西線にはチャンギ空港への 支線があります。この他,地下鉄駅から接続する郊外の団地内を走る新交通システムも 数路線あります。地下鉄路線のうち,南北線,東西線の2路線はSMRT社,北東線はSBS社が 経営していますが,切符は共通で相互の乗り換えで料金が区切られるといったことは ありません。ラインカラーは南北線が赤,東西線が緑,北東線が紫です。南北線と東西線 の車両はどちらも車体に赤帯が巻かれており,車両で路線の区別はできませんが,北東線 は紫の帯が車体に入っています。


チャンギ空港駅。空の玄関口の地下鉄駅もとても斬新なデザイン。

・料金・切符
 料金は距離制で,通常はスタンダードチケットと呼ばれるICカードを購入し,これに チャージを繰り替えして使います。またeZ-link(イージーリンク)カードと呼ばれるもの もあり,こちらは地下鉄,新交通システムの他,バスでも使え,スタンダードチケットよりも 安い料金で乗車できるものの,カード自体に5シンガポールドル(SPD:2006年当時 約375円)の代金がかかり,この分は乗車料金の精算には利用できません。したがって,一枚の カードでバスも利用したい場合を除き,乗車料金が5SPD以上の割引にならなければ,イージー リンクカードを買う必要はないでしょう。

 この他にはビジターズカードという観光客向けのチケットもあり,こちらはイージー リンクカードと同じ使い方ですが,観光施設の割引が受けられる特典が付いています。また, 一日乗車券などのフリー乗車券は発売されていないようです。使わなくなったカードは駅の 返却機に入れると,デポジットとして購入時に預けた分の金額(スタンダードカードで1SPD( 約75円),イージーリンクカードで3SPD(約225円)が返却されます。あと, 注意が必要なのは,距離に応じて入場から出場までの時間制限があること。制限時間を超える と追加料金が取られます。

・車両
 南北線と東西線の車両には日本の川崎重工や日本車輌製のものが使われています。 4ドア6両編成の車両を前面から見ると,サイドの屋根が丸みを帯びて側壁につながっており, かまぼこのような形に見えます。客室ドアは外側につり下げられており,戸袋はありません ので,電車到着の際,扉付近の車体に振れるとドアに手を挟まれてしまいます。集電は第三軌 条からで電圧は直流750Vとのことです。車内は全てロングシートで日本企業製の地下鉄車両 だからでしょうか,何となく日本の地下鉄車両に似た雰囲気です。車内は貫通路があるので, 自由に車両間の移動ができます。乗務員は運転士のみのワンマン運転で車掌の乗務はありません。


左:東西線車両。丸みを帯びた車体。右:ドアは外側に吊り下げられたタイプ。


左:先頭部真ん中は非常口で窓は両側のみ。右:車内の様子。つり革は日本でもよく見かけるタイプ。

 一方,北東線の車両はフランスのアルストム社製で,パリメトロ14号線のような無人運転 が行われています。車両は4ドア6両編成と南北・東西線と同じですが,車内はフランス製という こともあり,プラスチック製の座席や三つ又に分かれたスタンチョンポールなどはパリのメトロ に似た雰囲気を醸し出しています。無人運転が行われているため,当然ながら運転台はなく, 先頭部分も客室となっています。しかし,パリメトロのMP89CCなどと違い車端部には大きな非常 脱出口があり,前方はほとんど見えません。この路線のみ集電は架線方式を採用し, 電圧も1500Vとなっています。


北東線の車両。ホームドアで車体を撮すのは難しい...


左:車内の様子。いかにもフランス的な内装。右:先頭部分。展望はほとんど不可能。

・駅
 シンガポール地下鉄の各駅には駅番号があり,南北線はNS1〜NS27,東西線はEW1〜EW29, 北東線NE1〜NE17までの番号が各駅に割り当てられています。このうち南北線のNS6,北東線 のNE2,NE11,NE15は欠番となっています。将来新たに駅ができるところを初めから抜かして いるのでしょうか。各駅はホームドアが設置されており,これは駅構内の冷房効率を高める ためと言われています。郊外の高架駅ではホームの冷房はなく,このためホームドアもあり ません。


左:地下駅にはホームドアがある。右:高架駅にはホームドアはついていない。


左:改札口。乗車券は全てICカードなので改札機に切符の挿入口はない。
右:乗降をスムーズにする矢印表示はシンガポール地下鉄にもあった。

 路線間の乗り換えはかなり便利にできており,都心のシティホール駅とラッフルズ プレイスの2駅では接続する東西線と南北線は同一ホームで乗り換えができるようにされて います。しかも,両駅で接続する方面を入れ換える工夫もなされており,この2駅のどちら かを使えば東西線と南北線は必ず同一ホームで行えるようになっています(ただし, 両駅間を重複乗車する場合もあり)。


シティホール−ラッフルズプレイス駅間の南北線・東西線の配線。両駅の前後で複雑に交差している。
注)実際には駅は同一水準の2面4線ではなく上下構造になっている。


ラッフルズプレイス駅の案内表示。赤が南北線,緑が東西線。
左:上層ホーム,右:下層ホーム。

・おまけ:シンガポールの富士重工5Eボディバス
 何気なく地下鉄に乗っていたら,車窓から見慣れた形のバス達が見えました。降りてみると, そこには今や札幌でも見かけなくなった富士重工5Eボディ車が停まっていました。City Shuttle Serviceと車体に書かれていましたが,詳細はよくわかりません。前面にNissan Dieselという バッチがあったので,バスのシャシは日産ディーゼル製とわかりましたが,その他に赤いUD マークなどは見あたりませんでした。


日産ディーゼル+富士重工ボディの組み合わせ


リアビュー。ルーバーが懐かしい。リアウィンドウは三分割タイプで日本では1982年頃までの 仕様。

 バスの脇で写真を撮していると,一人の運転手が声を掛けてきて車中を見せてくれました。 前ドア脇の銘板には1993年製とあり,この当時日本国内で既にこのタイプのバスは生産が 終了していたことから,海外向けに生産が継続されたもののようです。車内の座席などは 日本では見かけないタイプでしたが,小さな押しボタンなど日本で昔よく見たタイプのもの で懐かしさを感じました。


左:運転席。クラッチとシフトレバーはない。右:懐かしの押しボタン。


参考資料:

  • 『地球の歩き方'06〜'07シンガポール』ダイヤモンド社,2005.12。
  • 日本地下鉄協会『最新世界の地下鉄』,ぎょうせい,2005.6。
  • 秋山芳弘「世界の鉄道めぐりシンガポール」『鉄道ジャーナル』,481,鉄道ジャーナル社,2006.11。

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    2008/1/26作成
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