特別研究室

チリ・バルパライソ地下鉄の紹介

3つの顔を持つ地下鉄


メトロとは思えない山越え路線。


 バルパライソはチリの海沿いにある街で、大きな商業港があるところです。バルパライソの地下鉄はこの街の市内の移動に使う地下鉄というよりは、隣町のヴィーニャ・デル・マールやさらに内陸の町などへ行く際に使う公共交通機関という色合いが強いです。特にヴィーニャ・デル・マールでは地下鉄が都心部を縦断していますので、実質的にヴィーニャ・デル・マールのほうが市内移動に使いやすいかもしれません。

 もともとは19世紀に建設された港と首都サンティアゴを結ぶ鉄道でしたが、その大部分の区間を廃止しバルパライソからリマーチェまでの区間は設備更新し、さらにヴィーニャ・デル・マール市街の一部を地下化して2005年に新規開業した比較的新しい地下鉄です。今でも沿線には列車用の機関車が置かれていた扇形機関庫や転車台が残っており、本線の線路も一部港内の側線に接続しています。そのため、海沿いを走る区間には踏切が残されています。なお、軌間はかなり広く1600mmくらいはありそうでした。

 バルパライソの地下鉄が地下鉄らしいのはヴィーニャ・デル・マールまで。海沿いのバルパライソから内陸のリマーチェまでの全区間でヴィーニャ・デル・マールも含め、4つの町を通過します。それぞれの町は市街地がかなり離れており、地下鉄もその区間は郊外路線のように長い駅間距離となります。特にヴィーニャ・デル・マールから内陸へ進む際には山あいの坂を登ります。この区間は峠越え路線で、とても地下鉄路線とは思えない区間です。


ヴィーニャ・デル・マール市街の地下区間。(左)
バルパライソの海岸区間。(右)


海岸沿いに残る旧鉄道の扇形機関庫。(左)
海沿いの地上区間には踏切もある。(右)


内陸部は何もない荒涼としたところを走る。(左)
途中の山越え区間。(右)

 料金体系は距離制のようですが、駅には運賃に関して何の表示もなかったため、一切情報が得られませんでした。窓口の係の人に尋ねると、どこに行きたいかを聞かれ、目的地を告げ言われた金額を払うとICカードとレシートが渡されました。レシートを見ると、ICカード代が1350ペソ、チャージ金額が450ペソの内訳でした。そのIC乗車券でヴィーニャ・デル・マールからバルパライソの終点まで乗ると、420ペソほど差し引かれました。地下鉄の公式ウェブサイトによると、料金はゾーン制ですが、時間帯によって料金に変動があるようです。

 チャージは窓口の係員にICカードと現金(チャージ最低額は300ペソ)を渡せば何も言わずとも手続きをしてくれます。目的地までいくらかかるかを聞くと、カード残高を確認しあとどのくらいのチャージが必要を教えてくれる場合もあります。レシートがもらえるので、チャージ金額もわかります。私も3回しか乗車しないのに最初の1800ペソのほかに1600ほどチャージしました。合計3400ペソ払い、残高は86ペソです。ちなみにICカード代自体は払い戻し不可のようです。2000ペソ弱の乗車に1350ペソのカード代はちょっと高いなと思いました。この他にも一日乗車券もあるようです。私もそれを知っていればそっちを買ったのですが…


IC乗車券。(左)
IC乗車券は改札にある駅の窓口でチャージ可能。(右)

 バルパライソ地下鉄の車両は2両編成が1ユニットになっています。ホームの長さは4両分以上あり、2両編成の電車はホームの端に停まるような感じです。私が乗った時にはすべて2両編成でしたが、時間帯によっては4両編成での運転もあるのかもしれません。

 車両の形式は1つのみ、青と白の塗り分けの外観で、前面には大きくMETRO VALPARAISOと書かれています。車内は4人掛けのボックス席が並ぶ配置です。車内の通り抜けも可能で、連結面には日本の車両のようにガラス戸の貫通扉が付いています。

 終点のLimache駅脇の車両基地では、真新しい新型車両の姿も見ることができましたが、営業運転に入っているのは見かけませんでした。


車両。大きな前面窓が特徴。(左)
車内はボックスシート。(中)
車両基地には新型の車両もいた。新型車両は1車両3ドア。(右)

 バルパライソの地下鉄は、地下区間はヴィーニャ・デル・マールの都心部の短区間しかなく、地下駅はたった4駅しかありません。地下駅では階段を降りると改札と切符売場があり、切符売り場は自動券売機ではなく、有人の出札窓口になっています。改札機が並ぶ改札を入るとさらに階段を下りてホームとなり、構造的には日本の地下鉄の駅と似た感じです。

 地上駅は対向式ホームのところが多く、どの駅にも改札機が設置されて乗客の出入場を記録してIC乗車券から料金を差し引きます。駅構内で乗客が線路を横断するには一部踏切が使われている駅もあります。これも海沿いの区間に多く、山側の郊外駅では階段(多くは線路の下をくぐる形)が使われることが多くなっています。山側の終点駅Limache駅では、バスとの接続も行われており、バスとの乗継割引も適用され、駅ではバス乗り換え専用改札で直接バスターミナルに入る仕組みになっています。


地下駅への入り口。きれいな壁画が描かれていた。(左)
地下駅の様子。コンクリートの壁面で特に装飾はなし。(右)


地上駅の様子。(左)
乗客は踏切を渡ってホームへ出入りする。(中)
終端駅のLimache駅にはバスへの乗り換え専用改札がある。(右)

 バルパライソの地下鉄は、3つの顔を持っていると言えるでしょう。一つはバルパライソの起点であるPuerto駅からヴィーニャ・デル・マールまでの海沿いの区間、ヴィーニャ・デル・マール市街の地下区間、そして、山側の山間郊外区間。海沿い区間はまさに函館本線の銭函−小樽間のように海沿いを海岸線に沿って走り、遠くに坂に広がるバルパライソの市街地が見えてきます。ヴィーニャ・デル・マール市街区間は、もっとも地下鉄らしい市内交通としての役割が中心です。そして、最後の山側区間はまさに峠越えのような登坂区間もあり、とても市内交通機関としての役割が中心の地下鉄とは思えないのどかな風景が広がります。40kmほどの営業距離ですが、1時間ほどの乗車でいろいろな車窓や雰囲気を楽しめる地下鉄でした。

 もう1つ、車内には物売りや音楽演奏者が頻繁に乗車してくることもこの地下鉄の特徴かもしれません。運転頻度が低く編成が短いので、かなりの確率でいわゆる「車内販売」と乗り合わせます。売っているものはチョコレートやスナックが多いようです。音楽演奏者も2組が同時に乗り合わせることもあり、2両の車両を分け合って演奏することもありました。以前乗ったサンパウロの地下鉄でも「車内販売」は見かけましたが、これほど規模の小さい地下鉄で「車内販売」が多数乗っているというのもちょっと驚きでした。


参考資料:

  • 『バルパライソメトロ公式サイト』http://www.metro-valparaiso.cl/
  • 『ウィキペディアバルパライソメトロ(英語)』https://en.wikipedia.org/wiki/Valpara%C3%ADso_Metro
  • 日本地下鉄協会『世界の地下鉄 151都市のメトロガイド』,ぎょうせい,2010。

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    2016/5/8作成
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