特別研究室

アメリカ・ワシントンD.C.の地下鉄の紹介

コンクリートブロックでできた駅構内が特徴です。



駅の入口に掲げられた地下鉄とバスのマーク。


・概要
 ワシントンDCの地下鉄は全部で5路線。ワシントンDCの面積はかなり狭いので、ワシントンDCの 地下鉄はDC地区だけではなく、ヴァージニア州とメリーランド州にも路線が延長されています。 路線名は色で表され、レッド、ブルー、グリーン、イエロー、オレンジの名前が付いています。 列車の走行は自動車と同じく右側通行です。中心部は2路線が線路を共有する区間もあり、同じ ホームに複数路線の列車が発着する「路面電車方式」になっています。路面電車方式のメリット としては、併走する路線の線路を別々に建設しなくてもよいため、コストが削減される点と、 線路を共有する路線同士の乗り換えが容易になる点が挙げられます。一方で、乗客が行き先を 間違えやすくなることや、片方の路線の遅れや運行障害がもう一つの路線にも影響を与えてしま うことが欠点となるでしょう。ワシントンDCの地下鉄の場合、路線名が電車正面に表示され、 ホームの案内表示機にも路線名と行き先が表示されますので、それほど間違うということはあり ません。


右:地下鉄はヴァージニア州まで足を伸ばす。ホームの壁に"Welcome to Virginia"の文字。
左:案内表示機には路線名、両数、行き先、到着までの時間が表示される。ORはオレンジ、BLはブルーの略。

 料金体系は基本的には距離制を採用していますが、朝夕のラッシュ時以外は割引料金が適用 されます。最低料金は通常、割引とも1ドル35セント(約160円)ですが、最高料金は通常料金 で3ドル90セント(約470円)、割引料金で2ドル80セント(約340円)になります。切符はマグネッ ト式とタッチ式ICカードの2種類があり、どちらも自分の好きな金額をチャージする方式です。 切符の自動販売機に駅名と料金が表示されていますので、片道だけを利用するならそこに表示さ れた金額に指定して切符を購入すれば良いわけです。日本のような路線図の上に料金が示されて いるわけではないので、駅名を確認しリストから料金を調べないといけません。距離制なので、 改札口では入場、出場とも切符を改札機に通す必要があります。料金が不足する場合のため、 改札内には精算機があり、この辺のシステムは日本の地下鉄と同じです。改札内にはもう一つ バスへの乗り継ぎチケット発行機がありますが、私はバスを使ったことがないので、どのような システムになっているのかはわかりません。


切符売り場。通路の曲面に沿って自動販売機が並ぶ。奥の2台だけ高さが違う。

・車両
 使用されている車両は全路線でほぼ共通の外観・構造をしており、集電は第三軌条からです。 路線ごとの車両形式の区別や色分けはされていないため、共有区間でも車体外観による路線の 区別はできません。車両はすべて片運転台の車両で、運転台のない中間車はありません。2両 編成が1ユニット、それが2〜4ユニット連結されて4〜8両編成を組成します。車両間の 通り抜けはユニットを組む車両も中間先頭車部分でも非常時以外できません。どの路線も6両 編成が基本ですが、中には4両編成や8両編成の列車も見られました。編成両数もホーム のLED表示に路線名、行き先とともに掲示されます。

 外観は20m級の比較的大きめの車体で、各車両片側3つ両開きドアがあります。列車はワ ンマン運転で、運転台は車両の右側にあり、貫通扉を挟んだ反対側には客室と同じ2人掛けの クロスシートがあります。中間先頭車として使用されるときはこの座席も乗客に開放されてい ますが、先頭車と最後尾車は仕切りが閉じられ、乗客は運転台およびそのとなりの座席部分に は入ることができません。

 客室内は基本的に2人掛けクロスシートで、どの席もドアのほうを向いて座るように固定 されており、JR北海道のキハ54とは全く逆の「集団離婚?形式」の座席配置です。ドア付近には 横掛けの2人用座席が配置されています。つり革はなく天井の高い位置に保護棒があるだけです。 背の低い人はとどかないかもしれません。床はカーペット敷きです。また、客室内には枕木方向 に設置されたLED表示がありますが、次駅、行き先などの表示は行われず、路線名だけが単に表示 されるだけです(一部車両にはどちら側のドアが開くかも表示される)。したがって、一度列 車に乗ってしまうと、どこの駅に着いたのかを確認するには自動放送(一部乗務員の肉声放送) と窓の外の駅名表示を見る必要があります。


左:茶色が基調色の車両外観。特徴ある顔をしている。
右:室内の様子。床はカーペット敷き。

・駅
 駅の構造はどの駅も似たようなもので、コンクリートのブロックで円形のトンネルを形 成した中に島式もしくは対向式のホームがあるものです。改札口などのコンコースは同じトンネ ルの上部を使用し、改札階からはホームの様子をよく眺めることができます。出入口は日本の 地下鉄のようにあちこちにという感じではなく、大きな出入口が1か所または2か所ある程度 です(乗換駅などの大きな駅ではさらに多くの出入口がある)。ホームから地上まではほとん どの場合エスカレーターとエレベーターで接続され、階段しかないところはごくわずかです。


左:コンクリートブロックで構成される駅構内。照明は間接照明で暗い。
右:こちらの駅は構成されるブロックが違う。


左:入口サイン。サインは入口脇に立っているわけではなく、入口近くの道路沿いにある。
右:改札口までは長いエスカレーターで接続される。

 ホームやコンコースはすべて間接照明で照らされていますが、明るさはかなり暗いです。 電車に乗っているとホームにいる人の顔はわからないくらいです。車内からは駅名表示を確認 する必要があることが多いのですが、かなり暗くて見にくいです。ホームで雑誌などを読むこ とはできないでしょう。ホームの足元には埋め込み式のランプがあり、電車が接近すると点滅 します。乗車位置表示は全くありません。ホームにはLED表示機があり、路線名、行き先、両数、 到着までの分数が表示されます。20m級車両が8両まで停まれるホームの長さですが、この表示 器はホームの中央部に1つあるだけですので、ホームの端のほうにいると、目の悪い私など見る ことができません。


左:照明は線路の間にあるため、電車が到着すると天井にはきれいなシルエットができる。
右:でもホームには光が届かなくなり、さらに暗くなる。

 ホームを共有しない路線同士の乗り換え駅は4つありますが、そのうち3駅がDC中心部の 地下駅、1駅がちょっと郊外の駅になります。DC中心部の3つの駅はどれも路線同士が直交する 形になっており、札幌地下鉄の大通駅での南北線と東西線のような乗り換え法になります。郊外 の乗り換え駅も半地下ホームと高架ホームの乗り換えとなり、ここも線路はほぼ直交する形に なっています。東京の地下鉄やパリメトロのように長い通路を歩かされることはなく、とても 便利です。


左:乗り換え駅。札幌地下鉄大通駅のような直交が基本。
右:郊外の乗り換え駅は高架ホームと半地下ホームでの乗り換え。

・ラッシュ
 ワシントンDCの地下鉄のラッシュ時は、東京並みとはいいませんがかなりの混雑となります。 車両が3ドアでかつホームに乗車位置表示がないので、乗降には時間がかかります。ホームに 人があふれているときは電車も最徐行で進入するところが日本との大きな違いでしょうか。 電車が到着すると「出入口を塞がないように」と運転士が車外スピーカーでホームの乗客に 繰り返し注意を促します。乗客も日本のように無理矢理乗り込むことはせず、ある程度乗客で いっぱいになると次の電車を待ちます。あと、混雑した車内でドア付近に立つとき、日本では たいていドアのほうを向いて立ってドアが閉まるのを待ちますが、ワシントンDCではドア側に お尻を向けて立ちドアが閉まるのを待ちます。なんだかちょっとした文化の違いを垣間見る ことができました。ちなみに、ワシントンDC地下鉄の夕ラッシュのピークは17時から18時くら いのようです。日本では考えられないくらい早い時間の夕ラッシュピークですが、みんな17時 になるとさっと仕事を終え、帰途につくようです。


左:ラッシュ時のホーム。乗車目標はなく電車を待つ位置はみんなバラバラ。
右:ラッシュ時、マイナートラブルで電車が遅れたときの様子。ホームから階段までごった返している。


参考資料:

  • 『地球の歩き方'06〜'07アメリカ』ダイヤモンド社、2006.6。
  • 日本地下鉄協会『最新世界の地下鉄』、ぎょうせい、2005.6。
  • WMATA(Washington Metropolitan Area Transportation Authority)ウェブサイト http://www.wmata.com

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    2008/1/26作成
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