自動出改札機のいま・むかし

全国に先駆けて出改札の完全自動化を 行いました。


V型(ごがた)券売機の並ぶきっぷうりば(福住駅)
ウィズユーカードの普及で切符売り場自体あまり使われなくなりました。


 札幌市の地下鉄関連施設を設置するに当たり,徹底的な省力化が大前提とされていました。当時は 国内でも,改札に関しては有人改札が主流で,全駅に自動改札を導入する例は全く 見られませんでした。札幌市交通局ではこの改札を省力化の対象とし,自動改札機の導入に踏み切りま した。当時,導入にあたっての前提条件は,

ということが挙げられていました。その後,不正使用の対応の厳格化,普通券での乗り継ぎなど いくつかの改良が行われ現在に至っています。一方の自動出札機については,大人・子供それぞ れ8種類の乗車券が発行できる構成にし,売り上げデータ処理等の事務処理を自動化し,省力化を 行えるような機器設計がなされました。その他自動精算機,両替機,定期券自動販売機も同時に 設置され,出札から改札,精算,さらには定期券の販売まで自動化された高度なシステムが構築 されました。


 南北線開業時の自動出改札機はI型と呼ばれています。改札機は直方体の角を落としたような無骨な 形をした全身オレンジまたは青の改札機です。天井からは「小児通過中」という電光掲示がぶら下が っており,子供用の切符を挿入するとランプが点灯する仕組みでした。現在はすでに全機更新され, 次世代機に置き換えられていますが,子供の頃のかすかな記憶では,平岸駅に昭和62年まで残っていた のが最後だと思います。処理速度も非常に遅く,ワンテンポ遅れた感じで切符が出てくる機械でしたが, 切符の表裏両面で処理できたという今の改札機にもない機能を持っていました。 私は「ガッフンガッフン」と一生懸命切符を処理するこの改札機が好きでした。しかしI型の券売機に ついては,硬貨専用で紙幣はキオスクでの両替で対応していました。このときは全区間通しで乗車して も80円の時代でしたので,紙幣対応させる必要があまりなかったのかもしれません。


 東西線開業時には現在の改札機の原型ができあがります。表裏両面処理機能は表面だけになり, ページトップのような今風の?形になりました。また,券売機も主要7駅でオンライン処理が 可能となりました。また,定期券自動販売機も更新され,申込書に記入した氏名をそのまま定期 券に転写する機能が盛り込まれました。


 南北線延長開業時には改札機,券売機とも外見が大きく変わることはありませんでした。ただ, システム内容を見直し,東西線東札幌駅で昭和55年11月から実用試験を行いました。この型は, 音声で利用客に案内を行う装置の導入や各機器同士のコンピューターによる一括制御が特徴です。 「切符の表を上にして入れ直して下さい」といった声はこの改札機が最初です。また,券売機に 関してはこのIII型から千円札が使えるようになっています。


 このとき導入された券売機は,現金回収を遠隔操作で自動的に行えるという特徴があります。また, 精算機については,千円札が利用可能となりました。この券売機の外見上の特徴は,券種ボタンが デジタル表示となり,硬貨や紙幣を投入すると購入可能な券種ボタンに料金が表示される 仕組みになっている点で,現在はボタンの下に丸い料金のシールが貼られています。当初は白石− 新さっぽろ間の各駅と南北線5駅に導入されました。つい最近までいくつかの駅で見ることができましたが, 平成13年末頃にほぼ全機がV型もしくはVI型に更新されたもようです。また,この券売機では500円硬貨は使えません。 そのため,V型導入以前の一時期は500円硬貨用の両替機が置かれていました。また,中には駅員との連絡用 インターホンの通話口はプラスチックの格子がほとんど折られているものもありました。

IV型券売機普通券用(左)と乗継券用(右):麻生駅
左の券売機ではインターホンの格子が3本だけ残っていた。


 このときも改札機に大きな変化はありませんが,券売機については乗継券,普通券の両方を一台の 券売機で発売できるようになりました。左半分が黄色,右半分が緑色の券売機です。この券売機から 初めて500円硬貨が使えるようになり,両替機は姿を消しました。千円札も複数枚使用できるように なりました。これは,きっぷの複数枚購入ができるようになったためです。現在もっとも多く設置され ている券売機です。よくわかりませんが,きっぷの下地が黄色で統一されたのもこの時期からなので しょうか。あと,自動改札機については,この機械から乗車券にパンチをするようになり,不正防止 対策が図られています。精算機もバス→地下鉄の子供精算が自動でできるようになりました。

V型券売機(左):福住駅 VI型券売機(右):北12条駅
現在ではこの二種が主流。


 このVI型自動出改札機は,新しい世代の出改札機といってもいいでしょう。大きな特徴は札幌 市交通局のカードシステムであるウィズユーカード(以下,WYC)が導入されたことです。当初は 券売機のみの導入で,WYCを券売機に挿入し切符を購入する仕組みでした。平成6年の東豊線延長 開業時からVI型改札機が全駅に導入され,改札機に直接挿入できるようになりました。改札機, 券売機とも従来のものから大きくデザインが変わり,両者ともプラズマディスプレイによる画面 表示(改札機は通行可不可,券売機は料金等の表示)が特徴です。以前から形骸化していた青改札機 とオレンジ改札機の区別はなくなりました。また,券売機は全ての紙幣に対応し,売店や駅事務室 での両替の必要は一切なくなりました。精算機は地下鉄→バス・電車の乗継券を自動精算できる ようになりました。券売機,精算機ともコイン投入口・券挿入口の高さが今までより7cm低い1.25mと なっています。


 この型については,参考文献には載っていませんでしたが,VIからのシステム変更が行われていな ければ,宮の沢や真駒内の駅にある傾斜型券売機はVII型と言うのでしょうか。現在IV型を更新すべく 導入が進められました。また,現在非接触型のICカード(通称S.M.A.P card)による料金精算システムの モニター試験が新さっぽろ,大谷地,菊水,大通,発寒南の各駅で行われていました。各駅にはICカード のオンバリュー用の水色の機械も置かれています(これはVIII型とでも言うのでしょうか)。平成14年度 には全駅にこの型の導入され,全線で広域的なモニター試験が行われる模様です。

S.M.A.P card用残高確認機(左),入金機(中),改札機(右)
残高確認機と入金機は大通駅,改札機は大谷地駅のものです。

 以上のように普段何気なく使っている改札機や券売機ですが,確実に世代交代が起こっています。 特に最近はウィズユーカードの普及により券売機はその数を減らしています。また,改札機も古いもの が更新されるのではなく,撤去され改札機の数もまた減っています。2000年2月末には麻生駅の改札機 と券売機が数台ずつ撤去されてしまいました。同様のことは各駅でも行われているようです。コスト ダウンのため,利用率の低い改札機の撤去はいた仕方ないこととはいえ,なんだか寂しい気がします。


 「もし妊婦のお腹に当たって流産したら,交通局が責任を負いますか?」これは,自動改札機の 開閉をめぐり,地下鉄開業前の市議会で実際に出た質疑です。当時,自動改札機は阪急北千里駅で 実用化されていただけでした。札幌市の地下鉄では,開業当初から通常ゲートが開いていて不正な 切符を挿入すると「キンコンキンコン」といってゲートが閉じるオープン式を採用しています。 札幌市交通局がオープン式を採用したのは,何も性善説を信仰しているからではなく,データに 基づいた根拠があったのです。

 札幌市交通局がオープン式とクローズ式どちらを採用するかを検討した際,両方式の通過人数を 検討しました。オープン式だと一分間に70人が通過できる一方,クローズ式だと45人が限界という データが得られました。また,ドアが開いたままだと開閉の回数が少なくなり改札機の寿命も長くなる という利点があったのです。さらには,オープン式だと両方向からの進入が可能となり,改札機を 効率的に使用できるという点も考えたのだろうと思います。

 以上のようなことから,札幌では通常オープン式を採用しています。札幌市民はこのオープン 式の慣れてしまったためか,最近JR北海道が導入したクローズ式自動改札機には「切符を入れると ゲートが開きます」と書かれていました。


 V型以前の改札機には青とオレンジの二色があります。青い改札機はお年寄り 優先改札口となっており,床には点字ブロックが敷かれ,以前は改札機の上にも「お年寄り優先出口」 という腰を曲げ杖をついたお年寄りのイラストがついたプレートがぶら下がっていました。当時この イラストは地下鉄車内の専用席にも使われていましたが,「極端だ」とクレームもあったそうです。

 当初,交通局では青改札機を改札口の一番端に設置しました。理由は体の不自由なお年寄りのために 券売機から改札口を通って階段までの最短ルートを選んだためです。しかし,最短ルートを通りたいの は何もお年寄りに限ったことではなく一般の人でも同じです。ですから,青改札機はもっとも通過数が 多くなり,しかも急いでいる人が通るため通過速度が速く,お年寄りがゆっくり通過する改札口では なくなってしまいました。お年寄りもその点は心得たもので,空いている中央付近のオレンジ色の改札 機を悠然と通過するという交通局が想定したのと全くの「逆転現象」が起こってしまったのです。

 結局効果がない分,支障もないといった状態で有名無実化してしまいました。現在は 「お年寄り優先入口」のプレートもほとんどの駅で外され,私が確認した限りでは現在では菊水駅と 東札幌駅にあるくらいです。また青,オレンジの区別のないVI型改札機に更新されたことにより, 約半数の駅にはすでに青改札機はありません。今では青改札機もその存在意義を失い,昔の名残のよう な存在となっています。


参考資料:
若杉守「特集 出改札シリーズ(4) 札幌市営地下鉄の自動出改札システムの変遷について」『R&M』, 7(3),日本鉄道車両技術協会,1997.3。
札幌市交通局『100万人の新しい足 札幌市地下鉄開通記念』,1971.12。
札幌市交通局『札幌地下鉄建設物語』,1985.3。


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2002/4/21修正
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