軌道の研究

ここでは札幌市営地下鉄最大の特徴である軌道ついて研究します

札幌にしかない案内軌条方式にはさまざまな工夫がいっぱいです。


シェルターからトンネルへ(南北線南平岸駅)


 札幌市の地下鉄はゴムタイヤで走行するため,鉄車輪車両のようにフランジを利かせて 曲線を通過することはできません。そのため,案内軌条というレールによって列車の進行方向を 決めているのです。車両は案内軌条を左右から挟むような案内輪によって進路を保っているのです。

 案内軌条には南北線用のT字タイプと東西,東豊線用のI字タイプの二つがあります。二つの 案内軌条の違いは,帰電流の通電方式の違いによるものです。通常の鉄車輪の電車では, パンタグラフから取り入れた電流は,鉄車輪を通じてレールを流れて帰っていきます。しかし, 札幌地下鉄では鉄車輪の代わりにゴムタイヤを履いているため,ここから電流を帰すことはでき ません。そのため,案内軌条に負集電シューを擦り当てて電流を帰しているのです。

 南北線ではこの負集電シューを真上からT字案内軌条の屋根の部分に擦り当てているのです。 南北線案内軌条のT字屋根の部分に擦られている部分があるのは負集電シューが擦りつけられた跡 なのです。一方の東西・東豊線では,I字型案内軌条ですから真横から案内軌条の両側を挟みつける 負集電シューに変わ変わりました。また,この設計変更がこの後見る「スズメ音」と大きく関係 しています。

南北線(左)と東西線(右)の案内軌条


 走行路も南北線と東西・東豊線では全く違います。見た目の違いでも,南北線はダブルタイヤ なので,走行路も太くなっていますが,東西・東豊線では,シングルタイヤなので走行路もタイヤ 一本分しかありません。南北線の走行路は,コンクリートの道床に耐摩耗性の樹脂を貼りつけて 乗り心地を保っています。北24条−真駒内間では開業後まもなく走行路の改良工事が実施されて います。

 一方の東西線・東豊線ではコンクリート道床に鉄板を貼りつけ,南北線よりもさらに乗り 心地は改善されています。さらに新さっぽろ延長開業部分以降では,コンクリートに鉄板を埋め込む のではなく,鉄製の走行路を枕木にボルト止めするタイプに変更されました。

 したがって,東西線・東豊線の走行面はタイヤで鉄製の走行路がキラキラ光って見えますが, 南北線の走行面はコンクリートにヒビが入って補修した跡が随所に見られます。左のイメージは これから補修される部分で,走行面の黄色く見える部分が樹脂の剥がれている部分です。第三軌条に チョークで補修箇所が書かれていました。


 雪国札幌の地下鉄では,地上を走る時にも雪害の心配がありました。計画当時は除雪車で除雪 することが検討されていましたが,高速で走る地下鉄には除雪効率の悪い除雪車がダイヤを乱す原因 にもなりかねませんでした。効率よく除雪できる除雪車の開発もなかなか進展せず,結局軌道全体を シェルターで覆うことがいいということになりました。シェルターで覆うことにより,外がどんなに 吹雪いていても雪害の心配は全くなく,さらに軌道や車両の痛みも軽減されました。シェルターは 厚さ1mmの耐蝕性アルミ合金製で,高さ6.8m,幅9mの半円形カマボコ型です。シェルター区間は地下鉄 が地上に顔を出す南北線南平岸−真駒内間の約4.6kmのみです。

 現在でもこのシェルターのおかげで雪害に悩まされることは皆無で,市民の足として冬季間は 絶大な信頼があります。除雪方式ではなくシェルター方式を採用したことは大いに正解だったと 言えるでしょう。


 札幌の地下鉄は各線とも豊平川を渡ります。万一の漏水のために,豊平川を渡る前後には防水 扉が設けられています。防水扉は上から降りてくるタイプでトンネルを完全に塞いでしまいます。 各線の設置位置は以下の通りです。

 南北線東西線東豊線
位置幌平橋駅バスセンター前・菊水駅豊水すすきの駅

 南北線の幌平橋駅ホームの南端から防水扉を見ることができます。ここの部分だけ案内軌条の T字の屋根が欠け取られた形をしているのでわかります。


 札幌の地下鉄はゴムタイヤで走行してます。タイヤは高性能スチールコード入りチューブレス ラジアルタイヤを使用していますが,万に一つにしろ,パンクもしくはバーストの危険が全くない わけではありません。そこで,南北線開業以来,各線に数カ所パンク検知装置が設置されています。 これは,タイヤにかかる荷重バランスを走行面に埋め込んだロードセルが感知し,走行中のタイヤの 状態を分析するものです。もし,パンクを検知したときには運転司令室にパンクした軸とタイヤ位置 を知らせます。またトンネル内の表示灯で乗務員にも異常を知らせる仕組みになっています。各線の 設置位置は次の通りです。ただし駅のホームからは見えないと思いますのであしからず。

路線設置駅
南北線北24条,大通,真駒内
東西線琴似,大通,東札幌,南郷7丁目,新さっぽろ
東豊線栄町,豊水すすきの

 先にも述べましたが,南北線では負集電シューを上からT字型案内軌条の屋根に押しつけてい ますが,東西・東豊線では左右から挟みつけるタイプの負集電シューを採用しています。そのため, 東西・東豊線では電車の左右の揺れにより,負集電シューが案内軌条から離れることがあります。 離れたシューがまた案内軌条に擦りつけられたり,ぶつかったりするときには音が出ます。 この音が札幌地下鉄特有の「スズメ音」と言われるものなのです。

 皆さんも駅のホームで電車を待っている時に「チュウーン,チュウーン」 という音を聞いたことがあると思いますが,これがスズメ音なのです。 したがって,スズメ音は主に東西・東豊線で発生します。南北線では上からシューを擦りつけている ので,左右に車体が揺れてもシューが案内軌条から大きく離れることがなく,あまり大きなスズメ音は しません。この音は札幌地下鉄がゴムタイヤ式を採用して,負集電シューを案内軌条に擦りつけている ため発生する札幌地下鉄だけにしかない音なのです。


 皆さんも車から降りるときに静電気でピリッと感じたことがあると思います。これは,車が ゴムタイヤを履いていて,静電気が地面に逃げないために発生する現象だそうです。同じゴムタイヤを 履く札幌地下鉄でもこれと全く同じ問題が発生します。でも地下鉄で静電気を感じないのは,電車が 駅で静電気を放電しているためです。各駅にはホームの下や反対側の壁際にガイドレールのような 物があります。電車はこのガイドレールにアースを擦りつけて静電気を放電しているのです。車体 からヒゲのように飛び出たアースは全て系列の先頭車両についていますが,私たちにも見えるのは, 5000系の先頭車一番乗務員室側のドアの下についているものです。5000系のこのドアから乗り降り する時にちょっとホームとの隙間を覗いてみて下さい。左のイメージのように弾性のあるゴム板状の 2枚のアースがついているのがわかるはずです。ただし6000系・7000系・8000系では台車からアースが 出ているのでホームとの間から覗くのはちょっと難しいと思います。


参考資料:
札幌市交通局『札幌市高速鉄道 東豊線建設史(栄町〜豊水すすきの間)』,1989.9。
札幌市交通局『さっぽろの地下鉄・バス・電車』,1999.4。
札幌市交通局『さっぽろ市営交通NOL』,75,発行年不明。
魚住幸雄「S.S. TRAM(空気タイヤ電車)の試験結果(第二報)」『川崎技報』,48,川崎重工業,1973.1。
片岡昭夫「−我国4番目− さっぽろの地下鉄開業」『鉄道ファン』,131,交友社,1972.3。
奥野和弘「札幌市地下鉄 東西線開通」『鉄道ファン』,185,交友社,1978.9。


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1999/10/11作成
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