特別研究室

韓国・ソウルの地下鉄の紹介

とにかく車両の写真が写せません!


3号線車内から見るソウルの夜景。


 ソウルの地下鉄は1号線から9号線までの9路線と盆東線,それに韓国鉄道が運営する2路線があり,合計12路線のネットワークとなっています。これに空港連絡鉄道のA’REXや仁川地下鉄も加わりソウル地下鉄だけで完結しない広域ネットワークが形成されています。1〜9号線でも路線によって運営組織が異なり,1〜4号線はソウルメトロ,5〜8号線はソウル特別市都市鉄道公社,9号線はソウル市メトロ9号線となっていて,9号線だけは完全な民鉄にあたるようです。ただし,料金体系は韓国鉄道運営路線も含めて統一されていますので,日本のように運営組織ごとに切符を買い直したり,料金が打ち切られるということはありません。

 料金体系は距離制で,最低運賃は1000ウォン(2010年10月現在約70円)ですが,通常はICカードの乗車券になり,このデポジットが500ウォンかかります。もちろんICカードを使わなくなったら,駅にある返金機で500ウォンは返金されます。一方,磁気式の紙の切符も友人切符売り場で売られているようですが,ICカード乗車券よりも100ウォン高くなっており,乗客のほとんどは自動販売機で購入可能で安いICカード乗車券を使っています。ただし,一日乗車券のような旅行者に便利な乗り放題切符はないようです。距離制運賃制度を導入しているので,日本と同様に改札は入場時と出場時の2回行われます。

 すべての地下鉄線は架線集電方式を採用しています。運行形態としては,1号線などで日本と同様の他社線(韓国鉄道)直通運転が行われています。しかし,先に触れたように料金体系は統一されていますし,路線図でも経営会社が区分されて書かれているわけではないので,普通に乗っていて直通運転していることに気づくことはありません。機械的な面で言うと,韓国鉄道が交流電化なのに対し地下鉄は直流電化なので,車両は交直流車両が使われているとのことで,地下鉄に交直流車両を使うというのは,世界でもかなり珍しいと思います。あと,9号線に関しては急行運転が行われ,途中駅に待避線が設けられていて,各駅停車と急行の追い抜きが行われています。車掌乗務は一部の路線で行われていますが,ワンマン運転路線の方が多いようです。通行区分は1〜9号線が右側通行,韓国鉄道運営の3路線が左側通行と,両方の通行形態が混在しています。ブリュッセルのように1本の路線の途中で通行区分が変わるということはありませんが,左右両通行混在は世界でも珍しいものです。


左:架線が張られた線路。
右:改札口。改札を出たところにはICカードの返金機がある。

 駅の入り口は日本と同様に,交差点の4角にあるなど,一駅に多くの入り口が設置されています。ただし,入り口に立てられたサインはあまり目立つデザインではありません。多くの路線は軍事的な理由によるものか,かなり深いところを走っています。各駅には3桁の駅番号がつけられ,このうち百の位は路線番号と一致しています。ほぼすべての駅にホームドアが設置されていて,ホームと線路は完全に仕切られています。転落事故防止と埃の防止が目的で設置されたようですが,ホームドアのおかげで今回のソウル訪問時は車両の写真をほとんど写すことができませんでした。ホームドアはドア部分だけでなく戸袋部分にあたるホーム壁も線路側から押して開くことができるようになっており,緊急時にきちんとした停止位置で停められなくても乗客が降車できるようになっています。同様の仕組みはパリメトロの14号線のホーム壁でも見られます。


左:入り口にはポールが1本。
右:ホームはどこもホーム壁とホームドアが設置されている。


左:ソウルの繁華街明洞(ミョンドン)の地下鉄入り口。柱がグレーなので見つけにくい。
右:3号線の玉水(オクス)駅。駅番号335の百の位は路線番号。

 電車の両数は最大10両と日本と同様に長く,これに伴いホームが長いので乗り換えは遠い場合も多いです。また,長い通路を歩かされる乗り換えも多いほうでしょう。ただし,乗車位置に号車番号とドア番号があり,乗り換え案内表示には乗り換えに最も近い号車&ドア番号が表示されています。そして,乗り換え駅では,床や壁面に記された乗り換えたい路線のラインカラーを辿っていけばホームに辿り着くように工夫されています。


左:7号線に乗り換えるなら10両目3番ドア,9号線なら8両目4番ドアが近い。
中:乗車位置には車両とドアの番号があり,これを目安に乗り換えに近いドアを確認する。
右:乗り換え通路は目的の路線のラインカラーを辿っていけばOK。

 ヨーロッパの地下鉄に見られるホーム装飾については,一部駅では凝ったホーム装飾が施されています。地元の乗客の説明によると,ソウルの地下鉄では主要駅に韓国の歴史的遺産をモチーフにした装飾が施されているとのことです。また,一部の駅には乗り換えコンコース内にショッピングモールが形成されています。札幌地下鉄で言うと改札内にポールタウンやオーロラタウンがあるような感じで,とても改札内とは思えないほどです。また,ホームには駅構内図のほか,航空写真を利用した周辺地域のデジタル地図もあります。地図を縮尺や一を自分で操作できる地図もあり,この点は日本の地下鉄よりもはるかに進んでいます。そして,ホームには非常時のための防煙マスクなどが用意されており,テグでの地下鉄放火事件があったからなのか,緊急時への備えも日本の地下鉄よりも厳しいように感じられました。


左:これが改札内とはとても思えない。
中:ストックホルムの地下鉄のようだが,本物の素堀りではなくプラスチックのパネル。
右:デジタルマップは縮尺や表示範囲を自由に操作できる優れもの。

 先に触れたように各駅にはホームドアが設置され,車両の写真が撮れないどころか,顔も容易に見ることができなかったので,車両ごとの特徴はほとんどわかりませんでした。車両は路線ごとにラインカラーの帯を車体に巻いており,この点は東京メトロの地下鉄車両と同じ感じです。特に2号線車両は白い車体の窓周りを囲むように緑色の帯が巻かれ,パリメトロ車両の雰囲気にそっくりです。また一部車両では,内装の基調色がラインカラーと一致しており,つり革のベルトや床面にラインカラーと同じ色が使われています。


左:かろうじて写した3号線車両の外観。
右:緑の床は2号線車両。ラインカラーと同じ。

 列車編成は路線により4両から10両編成までで組成され,2号線など一部路線では車掌が乗務していました。日本の車両に似た4ドアステンレス製またはアルミ製車両が多く,車両間の通り抜けができるてんも日本と同じです。車内はオールロングシート,先頭車の一部に座席を撤去した自転車積載スペースがありますが,自転車の積載は曜日・時間が限定されています。ソウルの地下鉄では2003年に大邱で発生した地下鉄放火事件を契機に車両の耐火構造の強化が行われており,座席はすべてスチール製となっています。現在も一部の車両はモケット材のシートが使われていますが,そのうち完全にスチール製に交換されるようです。


左:ドア窓の大きさは一時代の営団車両そっくり。
右:9号線車両の最後尾から。

<2011年9月追記>

 2011年7月にソウルを再訪した際,2号線の高架駅の一部で低いホームドアの駅を見つけました。そこでようやく車両の写真を写すことができました。



2号線を走る車両4形式。左下の形式は前から見るとワシントンメトロ,横から見るとパリメトロそっくり!

 お隣の国だけあって,ソウル地下鉄は日本の地下鉄と似た雰囲気がありましたが,非常時に対する備えはホームに設置された防煙マスクや車両の難燃性強化などのほか,スリや置き引きと行った治安維持に対しても車内モニターで注意喚起するなど力を入れているというのが感じられました。日本では貫通扉の設置義務化などの対策強化はありましたが,防煙マスクの設置やスリ置き引きへの注意喚起などはやられていないですよね。治安対策に関しては,特に対策を講じる必要がない分,日本の地下鉄は韓国との比較だけでなく諸外国の地下鉄と比べても安心して乗れるのかもしれません。


各駅には防煙マスクが保管された棚が設置されている。


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2011/10/14更新
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