パリメトロ一のホーム装飾はこの駅でしょう。(11号線Arts et Metiers駅)
ヨーロッパのどこのメトロに乗っても,駅のホームはきれいに飾られています。日本とは 違い地下鉄のホームはきれいに装飾するものという考え方があるのかもしれません。パリメトロ も例外ではなく,駅のホームはとてもきれいに装飾されています。上の写真のような何か特別な 装飾が施された駅の他,普通の駅も白いタイルに大きな文字の駅名など,かつてのパリメトロの 装飾をそのまま残してある駅もたくさんあります。なお,以下の説明文では,何号線のホーム なのかを明確にするため,複数の乗り入れ路線の駅でも装飾が施されている路線のみを明記して います。
パリメトロは1900年から営業運転を開始し,1930年代までには概ね現在の路線の骨格が できあがっていました。この時期までに開業した一般的な駅では白タイルに青い駅名標が標準的な スタイルになっています。駅のホームは楕円形の断面をしており,ホーム壁面の大きな広告 スペースも上部に行くにしたがって弧を描き,頭の上にせり出すような形になります。各駅の 基調色はそれぞれ異なり,蛍光灯が設置された部分やベンチがその色で統一される感じです。 特にベンチだけを見ても,その色や配置は駅によって全く違い,メトロの窓からそれぞれの駅の ベンチを眺めていると結構楽しいです。
左:ごくごく一般的な内装(2号線Victor Hugo駅)
右:ベンチの色や配置はバラエティ豊富。(9号線St-Augustin駅)
1900年代の1号線と2号線の開業当時,一部の駅には平らなタイルが使われました。この 平らなタイルのほとんどが当時のままの状態で残っている駅は2号線のPorte Dauphine駅のみ です。また,別のページで説明しますが,開業当時のままの庇つきアールヌーボー入口や半径 30mの非常に小さいループ線が現役で使われており,1900年代初頭のパリメトロの様子を色濃く 残す貴重な駅となっています。
この平面タイルは開業当時から変わらない。(2号線Porte Dauphine駅)
この時期に建設された駅でも開削工法で建設された一部の駅は,かまぼこ型の形状ではなく, 平らな天井と露出した鉄骨や鉄柱が特徴となっています。このような駅では鉄骨や鉄柱がきれいに 塗られて駅の基調色を形成しています。また,1970年〜80年代に延長された区間の駅は,箱型の 他都市でも見かける一般的な造りになっているようです。7号線や13号線の末端部分などがこの タイプに該当します。これらの駅では対向式ホームとその吹き抜け部分に跨る階段,そこから 延びるコンコースというのが一般的な構造になっています。
左:開削工法で作られた駅。黄色い柱が印象的。天井にもアーチが組まれているのがわかる。(1号線Gare de Lyon駅)
右:1970〜80年代開業の駅。改札階から吹き抜けでホームを見渡せる。(13号線Gabriel Peri
Asnieres-Gennevilliers駅)
1号線Bastille駅
Bastille(バスティーユ)という地名(注:フランス語では「Bastille」自体に監獄という意味が
あるが,ここはそれが地名となった)はフランス革命の発端となった場所として世界史の教科書に
も登場しますよね。この駅にはフランス革命の様子の絵がホーム装飾として採用されています。
絵を見ているだけでフランス史の勉強にもなるでしょう。また,ホーム装飾とはちょっと離れます
が,この駅はホームの半分が地上,半分が地下トンネル内という面白い構造をしています。
また,La Defense寄りの急カーブも雑誌や映画などによく登場しており,パリメトロの名物と
いっても良いのではないでしょうか。あと,ホームから見渡す運河もなかなか良いものです。
左:歴史の教科書になりそう。絵自体もとてもきれい。
右:ホームの半分は地下。トンネル内は地上方向に向かって登り坂になっている。
1号線Tuileries駅
1号線はパリメトロの中で最も利用客が多い路線のためでしょうか,ホーム装飾もあちこちの
駅で見られます。先にご紹介したBastille駅が近代史だとすると,このTuileries駅は現代史
といったところでしょうか。1900年からの歴史的な人物・出来事などさまざまな面から現代史を
綴った写真パネルで装飾されています。また,パリメトロの運営会社RATPやフランス国鉄(SNCF)
などの交通関係の写真もいくつか含まれています。特にかつてパリメトロを走っていたスプラグ
という車両の写真もありますので,地下鉄ファンの人には是非見てもらいたいですね。
左:左下にカールルイスが見える。
右:スプラグ車両。後方の赤い車両は1等車。この駅では大きな広告もあまり目立たない...
1号線Franklin D. Roosevelt駅(2011年10月追記)
この駅は2011年9月の訪問時に改修されていて新しい装飾が施されていた駅です。黒を基調と
したシックな感じの装飾になっていましたが,コンセプトはよくわかりません。駅名標は各国の
言語で記されていました。なんだかすすきののバーといった感じが...
左:黒を基調としたシックな内装。
右:駅名標は日本語表示もあった。
3号線Parmentier駅
3号線Parmentier駅では,農業関係の展示が施されています。ホームには植物の種や農作業に
使う器具,栽培方法などの写真が展示され,ホーム端の壁にはジャガイモの絵が大きく掲げられ
ています。また,このホームのベンチも他の駅では見かけない面白い形のものです。どことなく
ザルかカゴなどをイメージしてしまいます。このような展示があるのは,フランスは農業国
だからでしょう。北海道も農業地域ですから,札幌地下鉄でもこのような装飾をしてもいいかも
しれませんね。
農業についての写真がいっぱい。
左:白いベンチは独特の形状。
右:壁に掲げられたジャガイモのタイル画。
4号線Chateau d'Eau駅
4号線Chateau d'Eau駅は「水の城」という意味です。もともとはRepublique広場にライオンの
噴水があり,ここから延びるRue de Chateau d'Eau(Chateau d'Eau通り)にある駅ということで,
この名前が付けられました。駅のホームのトンネル入口の壁にはライオンの噴水が描かれています。
なお,Republique広場のライオンの噴水は現在は移設されています。
左:トンネルに跨る2頭のライオン。その下をMP59が通過する。
右:絵はきれいにライトアップされている。
4号線Reaumur Sebastopol駅
3号線と4号線の乗り換え駅のReaumur Sebastopol駅には,4号線ホームとその手前の通路に
人のイラストが描かれています。この人はどうやら実在の人物をモチーフにしたらしく,
イラストの脇にはその人の名前と年齢それにメッセージが書かれています。
左:ホームはいつも人でにぎわう。でも,この写真の中で本当の人間は1人だけ。
右:この人はセリーヌさん,31歳。
4号線St-Gremain des-Pres駅
この駅では図書にちなんだ展示がなされています。ホームには本を陳列したショーケースが
置かれ,2週間ごとに展示される本が入れ替えられます。また,Porte d'Olreans方面行きホーム
の壁面にある穴には,本を読む人がデザインされた鉄柵が設けられています。
左:本の展示ケース。展示品は2週間おきに入れ替えられる。
中:ホームの鉄柵。奥には機械室がある。人が出入りする入口は鉄柵の下の白い扉。
右:天井には文章が映し出される。
参考資料:
松村美與子『パリメトロ物語』2000。
Brian Hardy『Paris Metro Handbook』1999(英語)。
Jean Tricoire『Un Siecle de Metro en 14 Lignes』2004(フランス語)。
Jean-Paul Ladril『Carnet de Paris en Metro』2005(フランス語)。
『METRO2003』http://www.metro2003.com/。
RATPウェブサイトhttp://www.ratp.fr(フランス語)。