パリメトロの駅(構造その1)

駅の構造の変わった駅をご紹介します。


この高低差の謎はこの下で。(10号線Mirabeau駅)


上下線オフセットホーム
 パリメトロの駅の中には上下線のホームが前後にずれているところが何カ所かあります(下図参照)。 これは地上の道路が狭く対向式ホームを確保するスペースがないところに見られます。 電車に乗って反対側ホームを眺めていると,駅を通過したのかと勘違いしてしまいます。このよう な配線は8号線Commerce駅と13号線Liege駅で見られます。13号線のLiege駅は,Nord-Sud装飾, 時間・曜日限定に加え,ホームオフセット駅でもあり,とても話題豊富な駅ですね。また,3号線 のAnatole France駅はホームの一部が重なる部分的オフセットホームとなっています。


13号線Liege駅。
左:ホームは片側だけ。反対側のホームは写真奥のほうにある。
右:反対側ホームはトンネルの向こう。


8号線Commerce駅。
左:こちらもホームは片側だけ。反対側ホームは写真手前側にある。
右:反対の電車は轟音を残して通過していく。


3号線Anatole France駅。ここは一部だけホームがオフセット。

片方向のみの駅
 パリメトロの路線の中には,片方向の電車しか停まらない(来ない)駅がいくつかあります。例えば 7bis線は一部大きなループ形状を描いてますので,Place des Fetes駅,Pre St-Grevais駅,Danube駅 の3駅は反時計回りに1周するループ上にあり,片方向への電車しか来ません。また,10号線の一部 Javel Andre Citroen駅−Boulogne Jean Jaures駅も上下線が離れ,離れている部分に片方向のみの 駅がそれぞれ3駅ずつ設置されています。この区間は上下線が通りが1本違う程度でせいぜい 200〜300mくらいしか離れていませんし,9号線が串刺しする形で通っていますので,それほど 不便ではありません。実は10号線のこの区間も現在の7bis線のように大きなループを描く路線でした。 それが1980年にPorte d'Auteuil−Boulogne Jean Jaures間が延長されたことで,ループ形状から 上下線分離区間へと変わりました(下図参照)。現在もごく一部の電車はPorte d'Auteuil駅から Michel-Ange Molitor駅へループ線を戻り,Gare d'Austerlitz方面へ戻って行きます。


開業当初の10号線(注)分離区間。Porte d'Auteuil駅で戻る形状。
注:この区間の開業当初は8号線の名称でPorte d'Auteuil−Opera間の運転だった。


現在の路線。Porte d'Auteuil駅からさらに先が延長された。
出所:Brian Hardy『Paris Metro Handbook』1999
Jean Tricoire『Un Siecle de Metro en 14 Lignes』2004

 この区間の駅で面白いのはMirabeau駅。ご紹介したとおり,この駅はGare d'Austerlitz方面 への電車しか停まらないのですが,Boulogne Pont de St-Cloud方面行き電車もホームの隣を急勾配で 通過して行きます。ホームからも通過する電車が見えますし,ホームの端に行くにしたがって上下 線の高さが変わっていくのがわかりとても面白いです。このページのトップにある写真はそんな 様子を撮したものです。また,通過する電車から下のほうにあるホームを眺めるのも楽しいですよ。


10号線Mirabeau駅。
左:ホームはGare d'Austerlitz方面だけ。Boulogne Pont de St-Cloud方面行きの電車は急勾配を登って通過していく。
右:ホームの反対側はこれだけ高さが違う。


Boulogne Pont de St-Cloud行きの電車の車内から。下にGare d'Austerlitz方面ホームが見渡せる。

 この他の駅も単に単線片側ホームという訳ではありません。Porte d'Auteuil駅は2面3線構造で, Boulogne方面への本線の他,ループ線への線路,車両基地への連絡線などが配される複雑な構造に なっています。普段は進行方向一番右側の線路が営業用に使われ,左側と中線は車両が留置されて いることが多いです。ごくたまに中線発車の営業列車もありますが,左側の線路は営業用には使わ れていません。また,Michel-Ange Auteuil駅はBoulogne Pont de St-Cloud方面への本線と9号線との連絡線の島式 ホーム2線構造,Michel-Ange Molitor駅もPorte d'Auteuil駅から来るループ線と Gare d'Austerlitz方面への本線の島式ホーム2線の構造になっています。結局,10号線の上下分離 区間で単純な単線片側ホームなのはEglise d'Auteuil駅とChardon Lagashe駅の2駅のみという ことになります。


10号線Porte d'Auteuil駅。
左:営業用には右側のホームしか使わない。
右:回送列車(左)とBoulogne Pont de St-Cloud行き営業列車(右)の同時発車。


左:Porte d'Auteuil駅の行き先案内。ここからループ線を折り返してGare d'Austerlitzへ 向かう電車もある。
右:こちらはMichel-Ange Molitor駅。左側のホームはループ線からの電車が発着, 右側はBoulogne Pont de St-Cloudからの電車が発着する。

駅上駅
 5号線Gare d'Austerlitz駅もとても面白い構造をしています。駅名の「Gare」とは国鉄の駅を 表し,国鉄Austerlitz駅との接続駅ということを示します。5号線のホームはなんと国鉄 駅の真上にあります。ヨーロッパの駅は端頭式ホームが並びその上に大きな屋根がかかる構造に なっていますが,その大きな屋根を直角に串刺しする形で5号線が乗り入れており,5号線の ホームは国鉄駅の真上にあるのです。ただ,ホームが壁で覆われているため,残念ながら5号線の ホームから階下の国鉄駅の様子は見られません。なお,この駅は10号線との乗換駅にもなって いますが,10号線は地下ホームから発着し,5号線と10号線は改札内の階段で結ばれています。


5号線Gare d'Austerlitz駅。
左:大きな屋根は国鉄駅のもの。その横腹に突き刺さる形で5号線が入ってくる。
右:夕日の中,MF67が到着。

背高トンネルポータル
 3号線Villiers駅は2号線との乗換駅で,双方の線路が平行に並んでいます。しかし,この駅の すぐ先で3号線は2号線の下をくぐって交差するため,3号線の線路は2号線の線路より3mくらい低い 位置にあります。しかし,なぜかホームのトンネルポータルは2号線,3号線も同じ高さにある ため,3号線のトンネルポータルはとても背が高く,不格好な形をしています。電車が通過して も,上部にかなり空間があり何だか違和感があります。


3号線Villiers駅。
左:3m近く掘り下げられて不格好なトンネルポータル。
右:電車が通過しても上部の空間がかなり空いている。

幅広ホーム
 9号線St-Augustin駅はMontreuil方面のホームが反対ホームよりも異様に広くなっています。 ベンチの配置も他の駅のように壁際におかれるのではなく,ホームの中央付近に配置され, なんだかとても違和感のある配置です。これは,かつてこの駅から2号線Ternes駅へと分岐する 支線が計画され,この駅は当時2面3線構造で造られたことが理由です。Montreuil方面のホーム はかつて2線に挟まれる島式ホームだったので,このようにベンチが中央に配置されたわけです。 しかし,支線建設計画は中止され側線は1960年代に埋められ,ホームは島式から幅の広い対向式 ホームへと変わったのでした。


かつては左側にもう一本線路があった。ベンチの配置が島式ホームであったことを物語る。


  1. はじめに(当研究所ご利用にあたって)
  2. 研究所長のひとりごと
  3. パリメトロの概要
  4. 車両の解説(総説)
  5. 車両の解説(形式別)
  6. 駅の紹介(入口)
  7. 駅の紹介(ホーム装飾その1)
  8. 駅の紹介(ホーム装飾その2)
  9. 駅の紹介(ホーム装飾その3)
  10. 駅の紹介(営業・折り返し方式)
  11. 駅の紹介(構造その1)
  12. 駅の紹介(構造その2)
  13. 今後のパリメトロ近代化計画
  14. 世界各国の地下鉄の紹介
  15. 参考資料・リンク
  16. 札幌地下鉄研究所

参考資料:
松村美與子『パリメトロ物語』2000。
Brian Hardy『Paris Metro Handbook』1999(英語)。
Jean Tricoire『Un Siecle de Metro en 14 Lignes』2004(フランス語)。
Jean-Paul Ladril『Carnet de Paris en Metro』2005(フランス語)。
『METRO2003』http://www.metro2003.com/
RATPウェブサイトhttp://www.ratp.fr(フランス語)。


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2011/5/8修正
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