パリメトロの概要

メトロネットワークはかなり大きいです。

笑顔の女の子の前にゴムタイヤ車両MP73が到着。
（6号線Sevres Lecourbe駅）

パリメトロの概要

　パリは東京以上に地下鉄網が張り巡らされている都市で，市内では少し歩けば必ず地下鉄（メトロ）の駅の入り口が見つかります。路線は全部で14路線，路線名は全て番号で 1号線から14号線まであります。この他，3号線と7号線には支線があり，それぞれ3bis線， 7bis線（bisとは「その2」という意味）と呼ばれています。

パリメトロ入口三様。左と中はアールヌーボー様式の入口。
右から1･4･7･11･14号線Chatelet駅，1･14号線Gare de Lyon駅，12号線Rennes駅

　地下鉄路線の他にいわゆる鉄道としての郊外近郊路線（RER）も地下路線で市内を縦断しています。メトロ，近郊路線，バスとも共通の乗車券で乗ることができます。料金はゾーン制ですが，パリ市内は1ゾーンでくくられているため，市内の移動は実質1回乗車1ユーロ40セント（2005年末現在約200円）の均一料金になります。その他，10回回数券（カルネ）や1週間または1ヶ月乗り放題の定期券（カルト・オランジュ）も販売しており，どれもバスやトラム，RERで共通です。その中でもカルト・オランジュは，長期間あちこち乗り歩きたい時にはとても使い勝手の良い切符です。

　東京以上に非常に複雑なメトロ網を持つパリですが，案内表示がしっかりしているので，乗り換えや降りる駅を探すのはそれほど苦労しません。駅構内にも地図式の路線図があらゆるところに掲示されており，車内のどのドアの上にもその路線の駅名が表示されています。世界一わかりやすいと言われるパリメトロ，本当にわかりやすくていいです。私にとっての唯一の難点はフランス語の駅名を正確に読めないことでしょうか…

＜2008年1月追記＞
　2007年7月から1回乗車券はTicket t+になり，1枚1ユーロ50セント（2007年末約250円）になりました。Ticket t+はこれまでのTicket tと異なり，1回の有効時間が1時間半となり，メトロとRER間の乗り換え，バス同士およびバスとトラム（T1～T3）の間の乗り換えができるようになりました。

＜2009年8月追記＞
2009年1月よりTicket t+は1ユーロ60セント（2009年7月末約210円），バス車内での購入は1ユーロ70セント（約225円）になりました。

＜2011年10月追記＞
2011年10月現在，Ticket t+は1ユーロ70セント，カルト・オランジュはNAVIGOというIC乗車券での発売になっています。

左：駅構内の案内表示（9号線Bonne Nouvelle駅）
右：ドア上の路線案内。3号線MF67更新車の表示はこれから停まる駅が点灯する。

路線名総距離(km) 地上走行距離(km) 走行方式車両形式編成両数(両)

1号線 16.6 0.6 ゴムタイヤ鉄車輪併用 ~~MP89CC~~MP05 ６

2号線 12.3 2.2 鉄車輪 ~~MF67・~~MF01 ５

3号線 11.7 　鉄車輪 MF67 ５

3bis線 1.3 　鉄車輪 MF67 ３

4号線 10.6 　ゴムタイヤ鉄車輪併用 ~~MP59・~~MP89CC ６

5号線 14.6 2.5 鉄車輪 MF67・MF01 ５

6号線 13.7 6.1 ゴムタイヤ鉄車輪併用 MP73 ５

7号線 22.4 　鉄車輪 MF77 ５

7bis線 3.1 　鉄車輪 MF88 ３

8号線 ~~22.1~~ 23.3 ~~2.8~~ 4.0 鉄車輪 MF77 ５

9号線 19.6 　鉄車輪 MF67 ５

10号線 11.7 　鉄車輪 MF67 ５

11号線 6.3 　ゴムタイヤ鉄車輪併用 MP59 ４

12号線 ~~13.9~~ 15.2 　鉄車輪 MF67 ５

13号線 ~~22.3~~ 24.3 2.4 鉄車輪 MF77 ５

14号線 ~~9.2~~ 10.7 　ゴムタイヤ鉄車輪併用 MP89AC ６

注：数値は下記出所をもとに2013年10月現在に修正している。
出所：Jean Tricoire『Un Siecle de Metro en 14 Lignes』2004

路線名	総距離(km)	地上走行距離(km)	走行方式	車両形式	編成両数(両)
1号線	16.6	0.6	ゴムタイヤ鉄車輪併用	~~MP89CC~~MP05	６
2号線	12.3	2.2	鉄車輪	~~MF67・~~MF01	５
3号線	11.7		鉄車輪	MF67	５
3bis線	1.3		鉄車輪	MF67	３
4号線	10.6		ゴムタイヤ鉄車輪併用	~~MP59・~~MP89CC	６
5号線	14.6	2.5	鉄車輪	MF67・MF01	５
6号線	13.7	6.1	ゴムタイヤ鉄車輪併用	MP73	５
7号線	22.4		鉄車輪	MF77	５
7bis線	3.1		鉄車輪	MF88	３
8号線	~~22.1~~ 23.3	~~2.8~~ 4.0	鉄車輪	MF77	５
9号線	19.6		鉄車輪	MF67	５
10号線	11.7		鉄車輪	MF67	５
11号線	6.3		ゴムタイヤ鉄車輪併用	MP59	４
12号線	~~13.9~~ 15.2		鉄車輪	MF67	５
13号線	~~22.3~~ 24.3	2.4	鉄車輪	MF77	５
14号線	~~9.2~~ 10.7		ゴムタイヤ鉄車輪併用	MP89AC	６

ゴムタイヤ鉄車輪併用式のしくみ

　パリメトロではかつて鉄車輪方式で運行していた路線をゴムタイヤ鉄車輪併用式に転換しました。この走行方式はパリメトロ独自のもので他の鉄道には見られないものです。走行方式はポイント部とそれ以外で異なります。まず，ポイント部以外ではゴムタイヤ走行軌道がレールよりもわずかに高い位置にあり，車両はゴムタイヤのみを接地させ，鉄車輪は宙に浮いた状態で走行しています。カーブを通過する場合には，両サイドに水平に取り付けられたガイド車輪と鉄車輪の深いフランジにより進行方向を定めます。一方，ポイント部ではゴムタイヤ走行軌道が低く設置されて鉄車輪もレールに接地するようになり，車両は踏面勾配とフランジにより進路を決めるという仕組みです。このように，鉄車輪とゴムタイヤを併用しながらも場所によって使い分けるというとても面白い方式なのです。

　なお，集電は両サイドのガイドレールから行い，負集電はレールに負集電シューを当てて行います。そのため，ポイント部以外の鉄車輪が接地していない部分でもレールは負集電シューによって磨かれて輝いているのです。

通常の走行時の様子。鉄車輪は浮いた状態で走る。

ポイント付近走行時の様子。ゴムタイヤ走行軌道が下がり鉄車輪もレールに接地する。

ゴムタイヤ鉄車輪併用式のメリット，デメリット

　ご紹介してきたようにパリのメトロは5路線でゴムタイヤ併用式が採用されており，世界最初にゴムタイヤを採用した地下鉄です。その意味で札幌地下鉄の先輩格にあたるのですが，札幌地下鉄がゴムタイヤのみの走行方式に対して，パリメトロはゴムタイヤと鉄車輪を併用する方式を採用しました。したがって，札幌地下鉄は案内軌条を挟むゴムタイヤで進路を決める方式ですが，パリのメトロは基本的に進路を鉄車輪の踏面勾配とフランジによって決めます。水平に設置されたガイドタイヤはポイント通過時の進路決定には使われません。あくまで通常走行時の安定性確保に使われるのみです。（先頭車の最前部の水平タイヤは，下部に円いブラシ付いていて，タイヤ走行路の障害物を除去するという働きもありますが。）そこで，札幌地下鉄の完全ゴムタイヤ式とパリメトロのゴムタイヤ鉄車輪併用式を比べ，それぞれにどのようなメリット・デメリットがあるのかを考えてみました。

左：ゴムタイヤ併用式車両の台車。(MP73)
右：MP89CC。編成全体ではこんな感じ。

・いろいろな面でのフレキシビリティ
　まず一つ目にゴムタイヤ併用式車両でも鉄車輪専用軌道の走行が可能ということです。ゴムタイヤ走行路のない鉄車輪軌道に乗り入れる場合でもタイヤが宙に浮いた状態で荷重を鉄車輪のみで支えられるからです。逆に鉄車輪車両がゴムタイヤ併用式の軌道に乗り入れることも可能です。パリメトロのゴムタイヤ併用式と鉄車輪式では，第三軌条の形状が異なっていますが，全車両に両方式に対応する集電シューが取り付けられており，走行システム上は問題なく相互乗り入れが可能です。このため，鉄車輪路線とゴムタイヤ併用路線の間にも多くの短絡線が設けられています。これは札幌地下鉄がJR線との乗り入れが全く不可能なのとは大きな違いです。

　二つ目の点として，タイヤメンテナンスの容易である点が挙げられます。札幌地下鉄ではタイヤ交換のために台車を外したり車体を持ち上げたりする必要があるでしょう。しかし，パリメトロでは，鉄車輪で荷重を支えることができるので，必ずしもタイヤを走行軌道に接地させる必要はないのです。現に車両基地などではレールのみが敷かれ，タイヤ走行軌道がないところもあるくらいです。この場合タイヤは宙に浮いた状態ですので，タイヤの脱着も容易に行うことができます。

　三つ目に，鉄車輪路線からゴムタイヤ併用式への転換が容易であるということです。パリメトロでは1958年に11号線で初めてゴムタイヤ併用式が採用されました。これは既存の鉄車輪線をゴムタイヤ併用式に改良したもので，決して11号線の新規開業時からゴムタイヤ併用式が採用されていたわけではないのです。6号線など地上部を高架で走る部分でも，それほど大きな騒音はないことから（もちろん札幌地下鉄のようなシェルターもありません），札幌地下鉄がゴムタイヤ式を採用した理由（騒音・振動の低減）は，ゴムタイヤ併用式でもある程度達成されていると思われます。

・雨の降る日は苦手...
　一方，パリメトロのゴムタイヤ併用式のデメリットとして，まず一番大きいのは，地上走行区間における雨天時の走行性に難点があるということです。これはパリメトロが地上区間もシェルターを使っていないことによるものですが，ゴムタイヤ併用式路線の地上区間では，鉄製のタイヤ走行面に排水用の溝を刻んでいます。また，路線の約半分が地上区間となる6号線を走るMP73は，タイヤも他線用車両とは異なるグルーブドタイヤが使用され，排水性を高めています。しかし，それでも雨が降ったときには，減速時にタイヤ・車輪がすぐにロックして滑走してしまいます。また，起動時も同様に空転が発生し，晴天時のような加速が得られない場合があります。さらには，ブレーキ時のタイヤロックによりフラットスポットが生じ，乗り心地にも影響を与えることもあるでしょう。私もごくごく普通の雨量でもタイヤロックや起動時の空転を経験しましたので，このような現象は雨のたびに頻繁に発生しているものと思われます。

左：ゴムタイヤ併用式の軌道(6号線La Motte Picquet Grenelle駅)
右：地上区間のタイヤ走行面には『)))))』状の溝が切ってある。

　次に，ゴムタイヤと鉄車輪という二つの異なる走行車輪を採用しているため，保守メンテナンスが複雑になるというデメリットが挙げられます。当然，タイヤと鉄車輪の保守・交換間隔は異なりますので，そのどちらかに保守が必要になる度に工場へ入場しなければなりません。また，同一編成内でもタイヤの摩耗に差が生じることも考えられます。札幌地下鉄はゴムタイヤの摩耗を均等化させ，一度の工場入場により全編成のタイヤを交換できるように電動車と付随車で機器配置を割り振り，なるべく車両ごとの重量に差が生じないように工夫がなされています。パリメトロではこのような編成内での機器割り振り，重量の均等化は行われていないようですので，車両ごとのタイヤ摩耗の偏差も生じてくるのではないでしょうか。

・ゴムタイヤ併用式はパリジャンの誇り？
　11号線から始まったゴムタイヤ併用式の採用ですが，残念ながらパリメトロ14路線のうち5路線に採用されるのみにとどまっています。これはやはり鉄車輪式のほうが良かったということではなく，単に走行方式転換に莫大なコストや時間がかかるという問題からこれ以上の転換ができないことが理由のようです。ですから，最近開業した14号線が最初からゴムタイヤ併用式を採用しています。また，パリメトロのゴムタイヤ併用式は，フランス国内のリヨンやマルセイユの他，カナダのモントリオールなどのメトロにも採用されています。私たちが札幌地下鉄のゴムタイヤ式を札幌方式と言って誇るように，パリの人々もゴムタイヤ併用式の技術を誇りに思っているのかもしれません。

パリメトロの運行管理

　パリメトロはかなりの高頻度で運転されており，ラッシュ時など最も運転頻度が高いときは 1分45秒間隔で列車がやって来ます。パリメトロでは，朝ラッシュ時，夕ラッシュ時，日中時間帯，夜時間帯の大きく4つの運行時間帯に区分して列車の運行を管理していますが，深夜や早朝の最も運転頻度が低い時間帯でも8分くらいの間隔で運行されています。

　乗務員は日本と同様に列車時刻表（スタフ兼用？）を携行して運転時の運転時刻を確認できますが，これには基本的に始発と終点くらいの時刻しか書かれていません。途中駅では駅で乗務員に対して出発適正時刻を表示するようになっています。主要駅には下の写真のようなデジタル表示機がホーム端に設置されています。この表示機ではAからDと記された4つの数値が1秒ごとに時を刻んでいます。まずアルファベットの意味ですが，これは運行ダイヤの種類を表します。Aは朝ラッシュ時，Bは夕ラッシュ時，Cは日中時間帯，Dは夜時間帯を表します。そして，1秒ごとに変わる数値は始発駅の発車時刻を表しています。

表示機には始発駅の発車時刻が表示される。（3号線Gambetta駅）

　上の写真でご説明しましょう。この写真は3号線Gambetta駅Pont de Levallois Becon方面ホームで撮影したもので，撮影時刻は7時29分02秒（デジカメの表示時刻なので正確ではありませんが...）です。この時間帯は朝ラッシュですので，朝ラッシュダイヤAで運行されています。この写真を撮した7時29分02秒の瞬間はAの数値が25:31ですので，始発駅である Gallieni駅を7時25分31秒に発車した列車はGambetta駅を今発車するのが適正発車時刻であるということです。そしてこの先の駅でも25:31という時刻が表示機に表示された時点で発車すれば，列車は定刻運転ということになります。つまり，乗務員は始発駅の定刻発車時刻をスタフで確認し，その数字が表示機に表示された時点で発車すれば，ダイヤを守れるということになります。

　この方式だと，乗務員は数ある駅それぞれの出発時刻を確認する必要がなく，始発駅の発車時刻だけを表示機で確認すれば良いというメリットがあります。また，この数字を見れば始発駅からこの駅までの所要時間が計算できます。現在時刻7時29分02秒と表示機の表示時間の引き算でGallieni－Gambetta間は朝ラッシュ時で3分31秒，夜時間帯では3分10秒が適正所要時間ということがわかり，やはりラッシュ時の方が所要時間を少し長くとってあるということがわかります。

パリメトロの概要

今後のパリメトロ近代化計画（2006年2月）

世界各国の地下鉄の紹介

参考資料・リンク

札幌地下鉄研究所

参考資料：
Brian Hardy『Paris Metro Handbook』1999（英語）。
Jean Tricoire『Un Siecle de Metro en 14 Lignes』2004（フランス語）。
『METRO2003』http://www.metro2003.com/。
RATPウェブサイトhttp://www.ratp.fr（フランス語）。

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2013/10/26更新